a lonf vacation 40周年 平成生まれ鼎談


第3回平成生まれが語る、「ロンバケ」ベストソングとは?

(構成:本田隆)

「我が心のピンボール」「雨のウエンズデイ」に見る、大滝さんの歌唱法と松本隆の描く歌詞の関係性とは… シンガー大滝詠一という観点からもロンバケについて語ってもらいました。後追い世代というのは、リアルタイムを経験していない渇望からか実に深いです!

―では、話を変えてアルバムの中で印象に残った曲について語りましょう。

昌太郎
僕はランク付けしているんです。1位はやはり、最初に衝撃を受けた「スピーチ・バルーン」ですね。その次が「雨のウェンズデイ」それから「Velvet Motel」かな。
アヤ
私は、今日のトーク「恋するカレン」から入ったんですが、もちろん「恋するカレン」好きだし、リマインダーでも記事を書いたことがあって思い入れがあるんですけど、「スピーチ・バルーン」もお気に入りの一曲です。「恋するカレン」って「スピーチ・バルーン」から続いているんですよね。「スピーチ・バルーン」って「Puff the Magic Dragon」(ピーター・ポール&マリー)のオマージュじゃないですか。私、この曲音楽の授業でリコーダーを吹いてて、異常に好きだったんですよ。
日本では童謡として親しまれているのに旋律の感じがめちゃめちゃ切なくて、私が大滝詠一さんの曲に想う懐かしさや切なさは、大滝詠一さんが50年代、60年代の曲に同じように感じていて、そういう系譜で(アルバムが)出来ているんだなぁって。おこがましいけど、私と(大滝さんは)似た者同士だと思っています。

―さっきアヤさんが言ってた「風立ちぬ」のエモーショナルな感じって、「恋するカレン」もそうですよね。フィル・スペクター的な胸に来るような高揚感だね。

アヤ
そう。でも、私は洋楽を掘っていないので、大滝詠一さんしか存じ上げなかった。大滝詠一オリジナルなものとして、80年代の曲って懐かしいわ! いいわ! って思っていたんです。大滝詠一さんご自身も50年代、60年代の音楽を「これいいな!」と思って自分の音楽に取り入れていらっしゃった感覚がいいんです。
昌太郎
元ネタの持っていき方がやはり素晴らしいです。童謡だから、子どもが聴いて歌えるものをもってくるという。それは、子どもにも入り込みやすいですよね。
ルネ
パフもお別れの歌だし、「スピーチ・バルーン」もお別れの歌だしね… いいよね…。

―ルネさんの一番好きな曲は?

ルネ
最近コレがいい! と思ったのは「我が心のピンボール」でした。これはね、大滝さんの歌い方が素敵です。歌い方によって意味が全く変わる歌だと思うんです。最初、歌詞を読まないで聴いている時は、カッコいい歌だなぁって思っていたのですが、歌詞をしっかり読んでみると、えっ、こんなに情けない歌だったの! ってびっくりしたんですよね。「それは恋のTILT…」のところで大滝さんがわざと不明瞭な発音をしているんですよね。だから、それが何か分からなくて、何か、いい感じの息継ぎなのかなって思って…。歌詞を読んで「T I L T」の意味を調べてみたら、ピンボールマシンをガタガタ揺らして反則するっていう意味で、それを踏まえて歌詞を読みなおしてみると、はにかみ屋を自称している男性が恋人のために自作の歌を作ってドン引きされて別れたって歌なのですよね。

それが、ピンボールマシンをガタガタ揺らしてる姿のようだ、って歌なのかと思ったら、こんなにカッコいいのに、なんて悲しいのって思って。一聴した時の印象と、歌詞を知った後の印象が違う。たぶんそれを意図的に作っていると思うし、大滝詠一さんの声の魅力も分かるいい歌だなぁと思います。
昌太郎
ロングバケーションを語るのって色々な方がやられていていますが、シンガー大滝詠一に注目して語るというのは、あまりないと思うんですよ。僕、初めて「ピンボール」聴いた時に「… 泣いてるよ」の部分がちょっと情けないと思ったのですが、歌詞をちゃんと読みながら聴くと、あの歌い方じゃないと成立しないんです。キレイに歌ったらダメなんです。あの歌は。そういうところも含め、ちゃんと歌詞を大事にした歌い方が反映されているひとつの部分だと思いました。
ルネ
歌い方で言うと、「雨のウェンズディ」の冒頭の「壊れかけたワーゲンの…」部分がワーゲンじゃなくて「ワゲンの…」って歌っているじゃないですか。ワゲンって何? 弦楽器か何か? と思ったんですが「ボンネットに腰かけて…」で車だと分かって。歌い方のアクセントのつけ方が不思議なので、聴くごとに情景がどんどん変わっていくのが素敵だなって。
昌太郎
大滝詠一さんはメロディと歌詞について、譜割りにもいろいろなやり方があるって言っていたんだけど、この「壊れかけたワゲンの…」っていうのはメロディを優先ですよね。逆に「カナリア諸島にて」の「防波堤の縁取りに…」の部分は「ボウハテイの…」が普通なはずなのに、あれは「ボゥハ・テイの…」に聴こえるじゃないですか。これについてご本人がラジオで、防波堤って言葉は「防波」と「堤」に分かれるものだから、松本隆さんの歌詞を優先したんだと言っていました。だから、いろいろなテクニックをシンガーとして使っているということですね。
ルネ
もうひとつ歌詞で好きなところは「FUN×4」で、「踊りながらカレッジと名前を聞き出した」ってあるじゃないですか。これは余談なんですが、フリッパーズ・ギターの「恋とマシンガン」にある「帽子の頭文字から部屋番号を探しだした」はこの歌詞を本歌取りしていると思うんです。でもね、松本隆さんの歌詞と大滝詠一さんの歌唱だと、「踊りながらカレッジの名前を聞き出す」ってとてもスマートなアプローチなのに小沢健二さんは帽子の頭文字から部屋番号を探し出すって…(笑)。その辺の違いがなんだか面白くて。
昌太郎
ナイアガラフォロワーっていう言葉がありますが、大滝さんから影響を受けていて(フリッパーズ・ギター)も渋谷系ですもんね。それがだんだん流れて今の星野源さんまで来ていて。すべて大滝詠一って人がやり始めたことなので、すごいですよね…。
アヤ
ルネさんの「我が心のピンボール」の男の情けなさの話でいえば、「恋するカレン」はやっぱり欠かせないと思います。最初ね、お洒落だなって思って聴いているんです。でも、だんだんこう、歌詞を知るうちに女々しいじゃないですか。それを「女々しい曲だよ」って言う男の人もいると思いますが、私は40年前の男子がこういうメロウな音楽に乗せて、「好きな女の子がいたけど振られちゃったなぁ」みたいな傷つきを全面に出すのって、当時の男子としてかなり珍しかったのでは? と思っていているんです。「そうさ哀しい女だね君は」くらいは言ってないと保てないものがあったのでしょう(笑)。
その強がりも忖度して妄想すると、カレンって名前の女の子ってキラキラしてて気が強そうじゃないですか。そこに届かない文化系男子のプライドとかを感じて可愛いなぁって思っちゃうんですよね。歌詞だけだと器が小さい男な感じもするんですが、ラストの前の間奏の部分、回想シーン的なところで、いつも私はあるはずのないカレンとのまばゆい想い出が出てきてしまうんですよ(笑)。音楽とあいまって結局、カッコ悪くない、洒落た男の振られ方に感じる。これは大滝マジックですね。

<次回予告 3月18日更新予定>
「ロンバケ」はリゾートミュージックなの?平成生まれが深堀りする、内包された世界観とは。

高橋 昌太郎(たかはし しょうたろう)

1991年生まれ。作曲家、音楽勉強家、ディスクジョッキーなど。
小学校4年生のとき、テレビドラマの主題歌として流れてきた山下達郎の「LOVELAND, ISLAND(ラブランド、アイランド)」に衝撃を受けて昭和ポップスの虜に。
ジャンル問わず、音楽の歴史や芸能文化を研究、発表したりしている。
Twitter : @ongakubenkyouka
Instagram : @shotaro_reverblue

郷ルネ

1994年生まれ。早稲田院生。オンライン昭和スナック「ニュー・パルリー」のママ。11歳の時、フィンガー5にシビれて以来、昭和に傾倒する日々を送る。70年代歌謡曲、80年代アイドル、グループサウンズ、渋谷系も好き。映画と古着好き。

ミヤジサイカ(アヤ)

1996年生まれ。東大院生。オンライン昭和スナック「ニュー・パルリー」のママ。カーステレオから流れていた、ユーミン、サザン、松田聖子… 80年代の音楽に心を奪われ幼い頃から昭和カルチャーに親しむ。歌謡曲バー「スポットライト」の元アルバイト。同世代の友人たちと昭和的スポットに出かけ、バブル期のカルチャーを追体験するのが趣味。

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