最終回昭和の香りとは別次元にあったアルバム。
平成生まれの「ロンバケ」への思い
(構成:本田隆)
いよいよ平成生まれロンバケ鼎談も今回で最終回です。これまでのお話を通じて、3人がどこで共感し、思いを深めていったのか。そして、大滝詠一という存在をどのようにとらえているのか、同じ情景を共有した3人が各々の言葉で語ってもらいました。
みなさんのこれまで話した中で、お互いが共感するところはありましたか?
- アヤ
- めっちゃありました。肌感として、みんな心に永井博さんの絵があって、大滝詠一さんの音があって、同じ情景を持って話しているなって思いました!
―それぞれの思いがより深くなったんじゃない?
- アヤ
- そうかもしれない!
―根本の思いはみんな一緒だったと思います。そこに昌太郎さんの理論的な話が入ってきて、そこで「やっぱりそうだったんだ!」って思うと嬉しいよね。
- アヤ
- ですね! こんなに楽しく教えてもらってラッキーでしたね。
―昭和の香りとは別の次元にあったアルバムということだね。
- アヤ
- 時を超えても、あのロングバケーションが浮かんでる場所からは、変わらない匂いが漂ってきているみたいな…。
―さっき、エバーグリーンって話も出てきたけど、古い、新しいで語るアルバムではないということですね。そういう部分は若い世代にも共感できるんだね!
- ルネ
- こんなに流行して、どこの街でも流れていて、人の記憶と結びついているのに古くならないって、すごいことですよね。大滝詠一さん自身が現実世界とは浮遊したところに存在しているからこういうアルバムになったんでしょうね。
- 昌太郎
- それに、はっぴいえんどって今でこそ有名ですけど、当時めちゃめちゃ売れていたわけではないんです。で、先に大滝さん以外の3人(細野晴臣、鈴木茂、松本隆)が有名になって、それからも売れなくて、音頭とか、風変りなことをやっていて…。
ある時、フジパシフィック(音楽出版社)の朝妻さんのところにJ.D.サウザーの「ユア・オンリー・ロンリー」を持って行って、「こういうのやりたいんだけど」と言ったって。普通は売れていない人に、こんなにお金をかけてくれないと思うんです。しかし、お金をかけたくなる何か。それが大滝詠一の魅力なのかなと。 - アヤ
- カッコいいよね!
- 昌太郎
- 細野晴臣さんが、ロングバケーションの前にYMOで成功するじゃないですか。その後に大滝さんがレコーディングに入った時かな。細野さんの家に行って「今度やっと俺の売れる番が来たから。これではっぴいえんどが揃うよ」と言ったそうです。
- アヤ
- それを焦らずに、この瞬間に出したことによって、今も多く人に聴かれているわけじゃないですか。そのマイペース、自分の納得したものを出そうという気概が素晴らしいですよね!
- 昌太郎
- 本人は確信があったと思います。周りはみんなヒットするとは思ってもいなかっただろうけど… とは言ってましたね。本当のロングセラーですからね。
―何度も何度もリイシューされてるしね。
- 昌太郎
- リマスタリングという概念も大滝さんが初めてかもしれません。日本で邦楽第1号のCDにもなっていますからね。
- アヤ
- 昨今のレコードブームでも、このアルバムから買ったという人もいたと思うし。だからCDが新しかった時代ではCDの一番最初だし、レコードが新しい時代はレコードの一番最初。常に新しいクラシックの立ち位置。まさにエバーグリーンですね。
―みなさんにとっての大滝詠一を総括すると、どんな存在ですか?
- 昌太郎
- 僕は大滝詠一さんを織田信長+エジソンと例えたりするんです。常に戦っていて流行りもの好きの織田信長。そして、エジソンのような閃きを持っていて。どちらも音楽家ではないですが、それに匹敵するぐらいの偉人なのかなって。
- ルネ
- 私は、「空中にいつまでも残っている声」みたいな人だなって思いますね。テレビにお出にならなかったこともあると思うんですが、ずっと、ラジオから自分の研究成果とか、考えてきたことを「遺言」という形で残されてきた人でしょ。だから、亡くなったあとも「いなくなった」ことにならない人だと思うんですよね。ずっと声が聞こえていて、亡くなったあともその声は聞こえてくる。そんな人の気がします。
- アヤ
- 最初、誰しもあると思うんですが、一回大滝さんの曲を聴いたその後、ビジュアルを見て、人となりを知って「あれ? 結構オタクだったの?」って一旦びっくりすると思うんですよ。それを経て大滝詠一の良さに戻ってくると思うんですけど、私もそういう感じ。自分はミーハーで、歌えて聴けて楽しい! みたいなところがあるので、元々理論や、知識の部分は得意ではないんです。でも、そういったものによって私の好きなものは構成されているんだってこととか、実は元ネタがこれで、っていう話とか、面白いんですよね。音楽ってこんなに楽しいものなんだって。大滝詠一はインプットを特に大事にしている音楽家だと思うのですが、それは、彼が好きだったものをそこに活かすとか、彼自身が音楽の世界で遊んでいる姿を見せてもらえるみたいな意味で、めちゃめちゃ素敵な人なんです。音楽の世界に生きていて彼自身が音楽の世界そのものの感じ。そこに触れるだけでいろんなものを知れるというのがすごく嬉しいんです。
<まとめ>
僕らリアルタイムの世代が、なんとなく分かっていても言葉に出来きなかったこと、そして平成生まれならではの新たな視点。数あるこれまでの評論とは別の次元でロンバケの魅力を余すところなくお伝え出来たと思います。3人の洞察力には脱帽です。これからも溢れる思いを言葉にしながら、まだ生まれていなかった時代の音楽の素晴らしさに触れ続けてください。
高橋 昌太郎(たかはし しょうたろう)
1991年生まれ。作曲家、音楽勉強家、ディスクジョッキーなど。
小学校4年生のとき、テレビドラマの主題歌として流れてきた山下達郎の「LOVELAND, ISLAND(ラブランド、アイランド)」に衝撃を受けて昭和ポップスの虜に。
ジャンル問わず、音楽の歴史や芸能文化を研究、発表したりしている。
Twitter : @ongakubenkyouka
Instagram : @shotaro_reverblue
郷ルネ
1994年生まれ。早稲田院生。オンライン昭和スナック「ニュー・パルリー」のママ。11歳の時、フィンガー5にシビれて以来、昭和に傾倒する日々を送る。70年代歌謡曲、80年代アイドル、グループサウンズ、渋谷系も好き。映画と古着好き。
ミヤジサイカ(アヤ)
1996年生まれ。東大院生。オンライン昭和スナック「ニュー・パルリー」のママ。カーステレオから流れていた、ユーミン、サザン、松田聖子… 80年代の音楽に心を奪われ幼い頃から昭和カルチャーに親しむ。歌謡曲バー「スポットライト」の元アルバイト。同世代の友人たちと昭和的スポットに出かけ、バブル期のカルチャーを追体験するのが趣味。