松本伊代 インタビュー

最終回 結婚・育児を経て
デビュー40周年を迎えた
松本伊代の音楽活動


近年はバラエティ番組での活躍のほか、“理想の夫婦” ランキングで1位になるなど、多方面で話題を提供している松本伊代。デビュー40周年を迎えた今年は歌手としての魅力が改めて注目されている。4月に出演した恩師・筒美京平のトリビュートコンサートでは往時と変わらぬキュートな歌声を披露。10月以降は40周年アルバム『トレジャー・ヴォイス[40th Anniversary Song Book] Dedicated to Kyohei Tsutsumi』(12月22日発売)に収録された「センチメンタル・ジャーニー」「くれないホテル」「ラブ・ミー・テンダー」「虹色のファンタジー」を次々と先行配信し、評判を呼んでいる。ロングインタビューの最終回は、90年代以降の音楽活動と今後の展望を中心に話を聞いた。
→第1回 筒美京平が愛した“トレジャー・ヴォイス“とは?
→第2回 アイドル全盛期を駆け抜けた1980年代を振り返る

―― 伊代さんは1993年にヒロミさんと結婚。その後、2人のお子さんの母親となりました。

松本
長男(俳優の小園凌央)が1995年、次男が1998年に生まれたので、しばらくは子育て優先でした。人前で歌う機会もなくなって、その間は家で鼻歌を歌うくらいでしたね(笑)。

―― 音楽活動を再開するきっかけは何だったのでしょう。

松本
同じ事務所だった本田美奈子.ちゃんが2005年に亡くなってしまって、彼女を追悼する『音楽彩』というメモリアルコンサートで久しぶりに「センチメンタル・ジャーニー」を歌わせてもらったことがきっかけになりました。その時は(早見)優ちゃんも出演していて、「伊代ちゃん、これからも歌おうよ」みたいなことを言ってくれて。彼女はいつもアクティブですから、会うと前向きな気持ちになれるんですよね。

―― 『音楽彩』は美奈子さんと交流のあった方たちが集まって毎年開催されていますが、伊代さんは毎回出演されています。

松本
『音楽彩』に初めて参加させていただいた時は、美奈子ちゃんから「歌はいいよ」と背中を押されたような気になりました。コロナ禍で昨年と今年は中止になってしまいましたけれども、これからも天国の美奈子ちゃんに感謝の気持ちが届くよう、参加していきたいですね。

―― その後の伊代さんは2009年に尾崎亜美さんから提供された「私の声を聞いて」を発表。デビュー30周年を迎えた2012年には約20年ぶりの単独コンサートを開催するなど、徐々に歌う機会が増えていきました。

松本
30周年コンサートの時は、なんと親衛隊が復活したんです! ありがたいことに、その後もイベントで歌わせていただくたびに “伊代隊” の皆さんが鉢巻や法被姿で応援してくださって。今はコロナ禍で声が出せないので、コールの代わりにペンライトを振ってくれています。私は今年、胸椎の圧迫骨折で2ヶ月ほどお仕事を休ませていただいたんですが、復帰後に出演したイベントにも駆けつけてくれて、すごく感激したし、力をもらえました。長い間、私のことを応援してくださっている皆さんには感謝しかありません。

―― ファンの方たちは『トレジャー・ヴォイス』のリリースを心待ちにされていたと思いますが、今回のアルバムの聴きどころや「こういう風に聴いてもらいたい」という思いがあれば、お聞かせください。

松本
歌の聴き方は人それぞれでいいと思うんですけれども、私は自分の歌を歌う時はなるべく歌い方を変えないようにしているんですね。いちリスナーの立場で好きな人の歌を聴いた時、「あれ? あの歌い方がよかったのに…」とか「崩して歌ってほしくなかった」と思うことがあったりするじゃないですか。だから自分はなるべく昔の歌い方に忠実に歌うように心がけているんです。そういう意味では、今回のアルバムのセルフリメイクに関しては、皆さんをガッカリさせることはないんじゃないかなと思っています。

―― 伊代さんはファン心理をよく分かっていらっしゃる! 歌い方は同じでも、キャリアを重ねたことで声の響きや表現力が増していますから、アルバムを聴いたリスナーはきっと満足すると思います。

松本
だといいんですけれど…。最近、私はバラエティのイメージが強いからなのか、歌を歌う人だと思われていないみたいなので、この機会に歌手であることを少しでも多くの方に知っていただけたら嬉しいです。そのためにはYouTubeやインスタなども活用していかなくてはいけないかな、と思っています。

―― 今はTikTokなど、SNSからヒットが生まれる時代ですから、今後の展開を楽しみにしています。ところで伊代さんは最近、ヒロミさんとのおしどり夫婦ぶりが注目されていますが、今回のアルバムに関して、ヒロミさんは何かおっしゃっていましたか。

松本
「くれないホテル」(オリジナル:西田佐知子)のカバーはすごくいいね、と。ヒロミさんはもともと「悲しくてやりきれない」(1989年に25作目のシングルとしてリリース / オリジナル:ザ・フォーク・クルセダーズ)みたいなしっとりした曲が好きなので、今回はジャズ調の「くれないホテル」が気に入ったようです。11月にYouTubeで動画を先行公開した時、URLを送ったら「友達にもチャンネル登録するように勧めておく」と言ってくれました。

―― 伊代さんの音楽活動についてはいかがですか。

松本
「もっと歌った方がいいよ」ということはたまに言ってくれますけど、自分のことで忙しいみたいで、私のことはあまり構ってくれないんですよね(笑)。

―― お子さんが2人とも成人されて、子育ても一段落だと思いますが、そうなると音楽活動に傾けられる時間が増えるのではないでしょうか。

松本
確かに今は私が家にいなくて困るのはワンちゃんだけですから(笑)、これからは歌以外の活動も含めて前向きに頑張ろうかなと思っています。

―― お話を伺っていると、伊代さんはとてもポジティブで、どんな状況でも楽しめる順応性を持った方だとお見受けします。それが長く芸能界で活躍されてきた要因の1つではないかと思いますが、ご本人はご自身のことをどう捉えていらっしゃいますか。

松本
物事をあまり深く考えないのがいいのかも…(笑)。最近は芸能界の後輩から「長く続ける秘訣はなんですか?」と訊かれることがあるんですけど、そういう時は「いろんなことを深く考えすぎないことも大事じゃないかな」と答えています。この世界って、いいことも悪いことも言われたりするじゃないですか。特に今は昔よりも情報がいっぱいあって、悪い情報も自分の目に入ってきてしまう。それを気にしすぎて落ち込んだら、体調だって悪くなりますから、気にしないことが長く続けるためには大事じゃないかなという気がしています。

―― いい意味での鈍感力は確かに必要ですよね。伊代さんは昔からそういうスタンスでしたか。

松本
若い時はもっと考えていなかったので(笑)、何事も緊張することなく、スムーズに入れるタイプでしたね。ある時から怖さを知って、緊張するようになりましたけど、それまではわりと堂々としていたように思います。

―― 失敗してもクヨクヨしない方ですか?

松本
そうですね。一応、悩むんですけど、一晩寝たら「あんなことで悩んでいたんだ」みたいな。目が覚めてから「あ~、この現実がまだ続くのか」と思うこともありますが、大抵のことは寝たら忘れてしまいます(笑)。逆にヒロミさんはすごく細かくて、常にいろんなことを考えている人なので「大変だろうな」と思うことがありますね。

―― ご夫婦でいいバランスを保たれているからこそ、お二人は “理想の夫婦” なのでしょうね。さて、もうすぐ新しい年を迎えますが、最後に今後の音楽活動についてお伺いします。アルバムがリリースされましたから、「次はライブを」という期待が高まりますが、その予定はありますか。

松本
ライブはもう少し背骨が回復してから、と思っています。今の状態だと踊りが精いっぱいできないので、年が明けてから計画するとして、来年後半くらいかなぁ。その頃にコロナがどういう状況になっているかにもよりますけど…。でも今回のアルバム制作を通じて、歌へのモチベーションがさらに高まりましたから、なんらかの形で開催したいと思っています。それまではYouTubeなどを活用して、新しい動画や歌もお届けできればと考えていますので、乞うご期待ということで(笑)。

―― 嬉しいニュースが届くのを楽しみにしています!

(取材・構成/濱口英樹)


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