さて。私の新刊
『イントロの法則80's~沢田研二から大滝詠一まで』(文藝春秋)の発売を記念した「80年代イントロなんでもベスト3」、いよいよ最終回です。
今回は、新刊本の巻末で発表した総合ランキングの5~3位をご紹介します。2位と1位は、実際に本で確かめてくださいということで。
第5位:薬師丸ひろ子『探偵物語』作詞:松本隆
作曲:大瀧詠一
編曲:井上鑑
発売:1983年5月25日美しい。実に美しい――『探偵物語』のイントロは、この曲全体の傑作性を、見事に象徴する8小節となっていると思います。編曲的なポイントは、2小節目の4拍目に入る「♪ シュルルル」というストリングス。何とセンチメンタルで、何と優美な編曲でしょう。
編曲は井上鑑。井上鑑による大瀧詠一サポートワークの中でも、この「♪ シュルルル」は出色だと思います。加えて言えば、6小節目と8小節目の後半に出てくる「♪ シャー」も、見事にセンチメンタルで優美。
薬師丸ひろ子について言えば、翌84年発表『Woman "Wの悲劇"より』を、拙著『1984年の歌謡曲』で、その年の最高傑作として賞賛したのですが、イントロだけで言えば、『探偵物語』の勝利でしょう。この優美なイントロに対して、『Woman "Wの悲劇"より』のイントロは常識的で通俗的かと。このあたりは正直、編曲家としての井上鑑と松任谷正隆(『Woman "Wの悲劇"より』の編曲担当)の差だと、私は考えているのてす。
第4位:田原俊彦『抱きしめてTONIGHT』作詞:森浩美
作曲:筒美京平
編曲:船山基紀
発売:1988年4月21日この『抱きしめてTONIGHT』は、C-C-B『Romanticが止まらない』、少年隊『仮面舞踏会』、中山美穂『ツイてるねノッてるね』『WAKU WAKU させて』、少年隊『ABC』と続いた、筒美京平=船山基紀による「デジタルとアナログとの融合プロジェクト」の完成形・究極形になります。この曲のイントロにおける、デジタルのプラットフォームに乗って、アナログのホーンが冴え渡るさまを聴いて下さい。
アナログのホーンが響くイントロと言えば、「第1期・筒美京平黄金期」を形成した、いしだあゆみ『ブルー・ライト・ヨコハマ』(68年)や、尾崎紀世彦『また逢う日まで』(71年)を思い出します。そして88年、「デジタルとアナログとの融合」の上に、あのホーンセクションが呼び寄せられたのです。
さらにこの曲の完成度を高めているのは、この曲のエンディングに近いところ、イントロ(のコード進行)に歌詞が乗る「♪ TELL ME 心なら TELL ME 動いてる~」のくだりです。ここはもう「ダメ押し」という感じ。レジェンド筒美京平の約20年間に渡る作曲活動の総括のような1曲です。
第3位:沢田研二『TOKIO』作詞:糸井重里
作曲:加瀬邦彦
編曲:後藤次利
発売:1980年1月1日新刊『イントロの法則80's』の冒頭を飾るこの曲については、
「1980元日発売! 時代の転換点となった『TOKIO』すべてを飲み込む沢田研二」、
「80年代に sus4イントロが増えた理由、その源流はロンドンパンクだった!」で細かく分析をしましたので、今回は、当時の沢田研二のインタビューをご紹介しましょう。
「タイガースで一花咲かせて、ソロになって一花咲かしている人間が、三度目あるかと、普通に考えたら誰もそう思わないと思う。(中略)自分自身にあきらめが出てくると、周りが、やっぱりねと思うだろうし。とにかく手綱をゆるめないで、ムチを入れまくってやらんことには、やっていけないでしょうね。(中略)けっこう助平根性があってですね、ヤマっ気もあってという感じで、そういう気持を持ち続けないとイカンと思うんですよね」(雜誌『ミュージック・マガジン』80年1月号)
80年代を目の前にした沢田研二が、今一度「ムチを入れまくって」いることが分かる発言だと思います。そして沢田研二は、自身のバンド=エキゾティクスをバックに、糸井重里、後藤次利、伊藤銀次、佐野元春、大沢誉志幸、白井良明など、新しい才能のエキスをどんどん取り入れ、さらにさらに過激になっていきます。
この曲のイントロにおける、どポップなディストーションギターのカッティングと、途中から出てくる、後藤次利のクレイジーなスラップベースは、まんま「80年代のイントロ」のように感じます。そして、これこそが、80年代沢田研二の「助平根性」「ヤマっ気」という気がします。
―― 以上、80年代「総合ランキング」の5~3位をお届けしました。新刊
『イントロの法則80's~沢田研二から大滝詠一まで』では、こういう話を、こういう筆致で、でももっと長文でこってりと分析しています。1~2位がどのイントロなのかも含め、ぜひご一読下さい。
2018.11.10