2024年 4月21日

ザ・ストリート・スライダーズ【ライブレポート】圧倒的な現役感!40周年プロジェクト完結

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ザ・ストリート・スライダーズのライブ 40th Anniversary Final The Street Sliders「Thank You!」公演日(NHKホール)
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photo:三浦麻旅子  

スライダーズ40周年イヤーの特別公演、日比谷野音の「enjoy the moment」


2023年、ザ・ストリート・スライダーズ(以下:スライダーズ)40周年の年が明けるや否やアナウンスされた再集結のニュース。5月の日本武道館を皮切りに、秋からは全国ツアー『ROCK ‘N’ ROLL』を展開。そして2024年3月からは、40th Anniversary Final「Thank You!」を全国8会場で展開。また、4月6日には 40th Anniversary Final SPECIAL GIG「enjoy the moment」として日比谷野外大音楽堂での公演が行われた。

花曇りの日比谷野音で行われた特別公演は、空を突き抜ける4人のグルーヴが格別だった。あえて観客を突き放すようなエッジの効いたロックンロールナンバー「SLIDER」から始まり、徐々にグルーヴが温まっていく感じは、スライダーズの現役感そのものだった。楽曲は生きものと言わんばかりに2024年現在のスライダーズの本領が徐々に発揮されてゆく。

それは、彼らがリトル・ストーンズと呼ばれていたライブハウス活動期から変わらない本質だったように思う。そこには “やりたい曲をやりたいようにやる。お前らついてこれるかい?” という矜持が感じられる。4人のアンサンブルは鉄板で、JAMES(市川洋二)& ZUZU(鈴木将雄)の重厚なリズム隊に、時にはルーズに時には繊細に絡み合う蘭丸(土屋公平)& HARRY(村越弘明)の2本のギター。そこに、80-90年代よりも、格段に重みとブルースフィーリングを兼ね備えたハリーのボーカルが解き放たれる。

野音での公演は、そんな2024年現在の彼らの飾らない魅力が溢れていた。終盤に登場したホーンセクションもまた、野音公演の醍醐味で、管楽器ならではの抜けの良さが4人のアンサンブルと絡み合う。特にホーンが加わった「Back To Back」の腰にくるグルーヴがたまらない。リズム&ブルースをルーツに持つ彼らならではのスペシャルな1曲となったことを記さなければならない。

NHKホールはスライダーズの完成形


そしてツアーファイナルとなったNHKホール。スペシャルメニューで行われた野音のセットリストとは異なっているという理由もあるが、それだけではない。バンドとしての力量が野音とは違うベクトルでNHKホールでは放たれていた。これが結成40周年を迎えたスライダーズの完成形なのだろう。

HARRYの「HELLO!」という掛け声と共に奏でられたオープニングは野音と同じく「SLIDER」だったが、“やりたいようにやってやる” という印象とは少し違った。それは、この日が本当のファイナルだというメンバーの思いが音に打ち出されたからだろうか。徐々にグルーヴが出来上がっていく野音の時とは違い、“これが集大成” と言わんばかりの「SLIDER」だった。この日を待ち侘びたすべての観客の気持ちに応えるようにスライダーズのロックンロールが客席を包んでゆく。

撮影:三浦麻旅子


そして「おかかえ運転手にはなりたくない」「Angel Duster」「Let’s go down the Street」といったミディアムナンバーが続く。心の奥を揺さぶるような「Angel Duster」のアンニュイなグルーヴは、スライダーズファンの体に染み付いた人生のペースメーカーのようでもある。ここからレゲエフィーリングを兼ね備えた「Let’s go down the Street」へと続く。性急さだけではないロックンロールの深い部分での魅力がNHKホールに染み渡る。

様々な人生の場面がオーバーラップする「のら犬にさえなれない」


5曲目は、彼らの初期の代表曲と言っていいだろう、「のら犬にさえなれない」だ。HARRYの文学的なリリックが4人の強靭なアンサンブルに絡まり、様々な人生の場面がオーバーラップする。今から41年前、彼らのデビューアルバム『Slider Joint』に収録されたこの曲はファンのアンセムと言ってもいいだろう。しかし、スライダーズの場合、アンセムと言っても、そこにはライブでシンガロングするような共感性がそこにあるわけではない。

HARRYの紡ぐ言葉の中にファンひとりひとりが解釈した物語が存在する。その脳裏に浮かぶ映画のようなワンシーンは十人十色だろう。そう、リリックの世界観の向こう側に見える景色はファンの数だけ存在する。この日NHKホールに集結したファンは、在りし日、心にしたためたその情景がリアルに浮かび上がってきたはずだ。

22年間の空白を瞬時に埋め尽くした圧倒的な現役感


後半は、HARRYの “じゃあ新しいやつを” というMCと共にプレイされた「曇った空に光放ち」「ミッドナイトアワー」でスライダーズのリズム&ブルースをたっぷり堪能。その後、蘭丸がボーカルをとる「天国列車」へ。ここからバンドのグルーヴはより加速していく。オープニングの「SLIDER」で出来上がっていたグルーヴからメーターを振り切ったかのようにバンドは転がり続ける。そこには40周年の一時的な再集結ではなく、未来を見据えているかのようなスライダーズがいた。

撮影:三浦麻旅子


続いて、ジェームズが歌う「Hello Old Friend」は見事なまでの安定感だ。ここから「カメレオン」へ。スライダーズが2000年に解散してから再集結するまでの22年間は、この曲の中で歌われているように、ネコがあくびをしていたほんのわずかな時間だったかもしれないという錯覚に陥る。それほど彼らの演奏にはリアリティがあった。22年間の空白を瞬時に埋め尽くした圧倒的な現役感。それがこの日のNHKホールだ。

日本のロック史上、5本の指に入る「So Heavy」の名演


そして、「So Heavy」でロックンロールの神を見る。これは、日本のロック史上、5本の指に入る名演だった。この少し前、メンバー紹介に続いた蘭丸のMC “今夜も渋谷で絶好調!村越弘明!HARRY!” がHARRYの心に火を灯したのか、そこにはスライダーズサウンドの真髄があった。誰も真似できない、どんなに音楽理論を構築しても成し得ることができない間合いとグルーヴ。この4人にしかできない奇跡だ。

黙々とバンドを支えるJAMES、ZUZUのリズム隊。そこに絡み合う蘭丸とHARRYのギターは極めてエモーショナルだ。そして、ここに垣間見ることができるルーツミュージックへの敬愛。観客の熱狂がヒートアップした空気感がヒリヒリと伝わってくる。

撮影:三浦麻旅子


そんな圧倒的なステージングに身も心も奪われながら、「Back To Back」へ。ファンキーなギターリフは、夢心地の世界へといざなう。演奏の途中でHARRYは何度も「Oh Yeah!」と叫ぶ。「So Heavy」で極めたバンドとしての頂点は、隙間なく転がり続ける。そして本編ラストの「TOKIO JUNK」へ。これは一時的な再集結なんかじゃない、スライダーズはこれからも転がり続けるのではないか? と思わずにいられない本編のラストだ。

スライダーズの40年は一瞬の夢


アンコールの1曲目は「いつか見たかげろう」蘭丸のギターの抜けの良さが、エンディングに向かう会場を感傷的に包む。40年という時間の経過は一瞬の夢だと思わせてくれる。

そんな儚さがいつまでも心の中に残る。そこにはフランスの詩人、ランボオが『永遠』の中で言う「また見つかった、何が、永遠が、海と溶け合う太陽が」の一節を思い出す。つまり儚さと永遠は表裏一体であり、そこに人生は集約されているということだろうか…。そして「風の街で生まれ」でスライダーズの40周年アニバーサリーイヤーは幕を閉じた。このラストナンバーはオープニングの「SLIDER」にも通じる “突き放すような優しさ” を感じる。それは、“お前たちに頼まれなくても、俺たちはここに戻ってくるぜ “ と言っているようだった。

撮影:三浦麻旅子


この日のNHKホールはスライダーズのベストライブと言える素晴らしさだった。終演のSEが流れると4人は横一列に並び、繋がった手を掲げながら観客に挨拶する。その光景を見つめながら、この日の全18曲は一瞬の夢のようだったと思えてならない。おそらく4人は誰のためでもなく、自分たちの生き様を確認するかのようにこのステージに立ったのだ。そして、スライダーズの40年は一瞬の夢だ。しかし、この夢は永遠に続くかのように思えた。

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2024.05.09
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カタリベ
1968年生まれ
本田隆
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