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宮崎美子 インタビュー

第1回 34年ぶりの新曲「ビオラ」に込めた想いとは?


♪もう どこへもNo Return もう どこへもNo Return あなたに会った その時に決めた

そのキャラクターと同様、明るくキュートな歌声が巷に流れたのは1981年10月のこと。デビュー曲「NO RETURN」がリリースされた時だった。それから40年――。現在は女優としてのみならず、クイズ番組やバラエティでも大活躍の宮崎美子が歌手デビュー40周年を迎えた今年、34年ぶりの新曲「ビオラ」を発表した。このロングインタビューでは、久しぶりに歌うことになった経緯と今の心境、かつて発表した楽曲やデビュー当時のエピソード、さらに今後の音楽活動に対する想いなどを3回にわたってお届けする。

―― 宮崎さんは昨年8月に公式チャンネル『よしよし。』を開設してYouTuberデビュー、10月には水着姿を含むカレンダーを発売してトレンド入りするなど、大きな話題を集めました。今年は50年前の中学生を演じたマクドナルドのCMが大評判となり、この1年、“ゴン攻め” ともいえるご活躍ぶりです。

宮崎
ゴン攻め(笑)。私はもともと「毎年1つは新しいことに挑戦を」と心がけているんですね。特に去年はコロナによって通常の仕事がストップしてしまいましたから、新しい表現の場を持つのもいいんじゃないかということでYouTubeを始めたわけです。その時に決めたのは「とにかく好きなことだけをして楽しもう」と。そうじゃないと続かないでしょう? それで今まで興味があってもきっかけがなかったボルダリングですとか、今までやったことがないコスプレ的なこともするようになったんです。

―― 今年に入ってからは“歌のカレンダー”シリーズとして、「早春譜」や「ふるさと」など、童謡や唱歌を歌う動画も投稿されています。

宮崎
実は去年も『鬼滅の刃』のお婆さん(藤の家のひさ)に扮して「竈門炭治郎のうた」を歌ったことはあるんです(笑)。ちょうどその頃、かつて私を担当してくださっていた音楽プロデューサーの谷田郷士さんから連絡をいただいて。

―― ビクターでチェリッシュ、桜田淳子、大竹しのぶ、石野真子、スペクトラムなど、数多くのアーティストを担当されてヒットに導いた方ですよね。

宮崎
不思議なご縁なんですが、熊本のご出身で高校の先輩なの(笑)。その谷田さんから久しぶりにお電話をいただいて「歌に興味はある?」と訊かれたんですね。たまたま「来年は歌をやってみようか」と考えていたところだったので「あります!」と。

―― 絶妙なタイミングだったんですね。

宮崎
そうなんです。それで渋谷のホテルのロビーでお会いしたら、谷田さんが以前プロデュースされた「きもち」という曲を持ってきてくださって。聴いてみたら、すごくいい曲だったので、その曲でデモテープを録ることになったんです。

―― 「きもち」は大竹しのぶさんのアルバム『ち・ち・ち』(2017年)の収録曲。作詞・作曲はハンバートハンバートの佐藤良成さんです。

宮崎
年末に初台のスタジオで録ったんですけど、30数年ぶりのレコーディングでしたから慣れるまで少し時間がかかったかな。曲自体はまさに「きもち」で歌う歌なんですが、ジャンルでは括れない不思議な曲ができたと思います。

―― その歌唱映像「宮崎美子が大竹しのぶ先輩の歌をカバーしてみた」もYouTubeにアップされていますが、前後して“歌のカレンダー”がスタートして。美しい日本の風景に宮崎さんの澄んだボーカルが馴染んでいて、とても癒されます。

宮崎
それは嬉しいなぁ。あの企画も谷田さんからのご提案がきっかけなんです。3月に「早春譜」、6月に「みかんの花咲く丘」、8月に「ふるさと」と四季折々の歌を歌ってきたので、もう1曲やりたいねという話をしているところなんですけど… 童謡って難しいの!(笑)。

―― その流れで新曲も作ろうということに?

宮崎
ええ。谷田さんから「ビオラ」というお題で詞を書きなさいという宿題が出て。こんな素人にずいぶんな無茶ぶりでしょう? でも相手は高校の先輩ですから「NO」とは言えなくて(笑)。

―― 2ndアルバム『わたしの気分はサングリア』(1982年)では3曲の作詞を手がけていらっしゃいますが、もしかしてそれ以来ですか?

宮崎
はい。当時はメロディに詞を乗せていたんですけど、今回は詞が先でね。谷田さんからは、控えめでさりげない、でもどこかで必ず見かけているビオラの花(注:パンジーの小輪多花性種)と、「自分が、自分が」って前に出ていくんじゃなくて、バックでみんなを支えている楽器のビオラのイメージを重ね合わせて書くように、と言われました。

―― 「ビオラ」は、花と楽器のダブルミーニングなんですね! 谷田さんはその2つに宮崎さんのイメージも重ね合わせていたのではないでしょうか。だからこそ人を優しく見守るような詞が生まれたのだと思います。ご自身でお気に入りのフレーズはありますか?

宮崎
最後の「忘れてくれてかまわない 大丈夫 きっと大丈夫」の2行ですね。私のことは気にしないでいいから、あなたは自分の道を行ってね、というメッセージ。「また逢いたい」とかではなく「いいの、それで」というところがいちばん気に入っているし、言いたかったことなんです。

―― コロナ禍が長引く今、聴く者の心を包み込むような温もりを感じます。

宮崎
大変な状況が続いていますけど、この歌を聴いた方が少しでも元気を取り戻して「もうちょっと頑張ってみようかな」という気持ちになってもらえたら嬉しいです。

―― 作曲と編曲は「きもち」を作られた佐藤良成さんが担当されています。

宮崎
最初の打ち合わせで、佐藤さんから「どんな曲がお好きですか?」と訊かれたので、ナット・キング・コールの「Too Young」を挙げたんですね。そうしたらイントロがまさに「Too Young」のイメージで。いろんな楽器を贅沢に組み合わせて素敵な曲に仕上げてくださって、本当に感謝しています。

―― 「ビオラ」と「きもち」は配信シングルとして9月15日にリリースされました。新曲の発売は1987年の「だからDESIRE」以来34年ぶり。配信ジャケットのタイトルとイラストは宮崎さんが担当されていて、作品への愛情が感じられます。ところで今日の装いもビオラの花の色のイメージでしょうか。

宮崎
そうなんです。振り返ると、昭和のアイドルの方たちって、「この曲を歌う時はこれ」って衣装がだいたい決まっていたじゃないですか。それに倣って、今回は洋服も靴も新調して、胸元や耳元のアクセサリーもビオラの花をイメージして作ってもらったんです。衣装も含めて1つの世界を創り上げていくのは、お芝居にも通じる作業で、すごく楽しい。あとはこれを着て歌う機会があるといいんですけど(笑)。
(取材・構成/濱口英樹)

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