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伊藤蘭 インタビュー
第1回
キャンディーズが解散宣言した
日比谷野音で
ソロ歌手・伊藤蘭として
44年ぶりのステージに!
1978年のキャンディーズ解散後、女優活動だけだった伊藤蘭さんが、2019年、41年ぶりにソロ歌手デビューしてから2年と少し。この間、ファーストアルバム、コンサートツアーと精力的に活動を続け、この秋、キャンディーズデビュー記念日の9月1日にセカンドアルバムがリリース。9月26日には解散宣言があった日比谷野音でライブ、ほか東京大阪含むツアーを控える。そこで、現役時代に100ステージを追っかけ、2008年に新生なった「全キャン連」(全国キャンディーズ連盟)代表である、著述家の石黒謙吾氏が、この2年間の活動からキャンディーズ時代の話まで深堀りしていきます。
- 蘭
- お久しぶりです。石黒さん、インタビューしていただくのはいつ以来ですか?
- 石黒
- は、はい! 前回はソロデビューの『ダイヤモンド・オンライン』以来なので2年ぶりです。無茶苦茶緊張してます…… ありえないぐらいに……。
- 蘭
- いえいえ~。よろしくお願いします。
- 石黒
- まず今回のトピックとしては、キャンファン的に「おおー! そうきたかあ」と感慨深かった、解散宣言のあった日比谷野音でのライブですね。しかもその発表が7月17日という解散宣言の当日という。今度はそのステージに上がるわけですが特別な感覚でしょうか?
- 蘭
- どんな感じになるのか自分でも想像つかないですねえ。当時は多くのファンの方に支えてもらい有終の美を飾らせてもらって本当に感謝しています。そしてあの日比谷のステージから44年経って、あの時いらしてた方達も長い人生を重ねてきた訳ですよね。だから、それぞれの人生を歩んだ私たちが、お互いにあの時の思いは完結させて、また同じ場所で逢えるって素晴らしい、奇跡に近いことだなって思います。
- 石黒
- ファイナルの後楽園球場はなくなっていましたから、ソロデビューのライブは横にある「TOKYO DOME CITYHALL」でありましたよね。でも今度の日比谷野音は、ズバリ、そのものがそこにあるわけですもんね。
- 蘭
- そうなんですよね。だからわたしとしては、ほんとうにあの時ありがとうっていう気持ちを常に携えてきて、そんなみんなと逢えてうれしい、っていう気持ちしかないですね。こんな巡り合わせって人生においてそうそうないだろうなって思います。
- 石黒
- あの時は夏のツアー『サマージャック77』の初日で、金沢の高校2年生だった僕は、来週から夏休みになってツアー追っかけられるからいいやと思って行かなかったんですが、いまだにそれが悔しくて……。これ、当日のセットリストです。
- 蘭
- うわー、32曲も歌ってますねえ。あ、ミュージカル仕立てにしていた「ロッキーのテーマ」までやってますね。
- 石黒
- ちなみにあのあと、観客として日比谷野音に行かれたことは?
- 蘭
- えーっと、ないですねえ。そういえば。あの時ともう1回、ライブじゃなくて、ファンの集いのような詩を朗読したイベントがありましたね。
- 石黒
- 後楽園ファイナルの前々日の4月2日にあった前夜祭ですね、と言っても昼間ですが。
- 蘭
- あ、前夜祭でしたね! 歌はない集まりだったから、私服でステージに上がって。
- 石黒
- 僕は行ってました。解散寸前で独特の高揚感とせつなさが会場を包んでいました。これがその時の写真です。女性ファンたちが作ったピンクのハッピを着てますね。
- 蘭
- あー、これ、3人で並んでちょうど詩を読んでるところですね。
昨年のクリスマスディナーショーでは
緊張感とはひと味違う楽しさが
- 石黒
- 今回のツアーで日比谷野音以外では、10月に中野サンプラザで2日連続であるということで調べたら、キャン時代にコンサートは3回ありました。これがセトリです。
- 蘭
- 最初のはミュージカル『スタンバイOK』やってますね。曲では「プラウド・メアリー」もねー。2回目のは28曲も! あ、この「ソーラン節」ってスーちゃんだなっ。
- 石黒
- こういう余興的なコーナーもありましたよね。
- 蘭
- チケットが2,500円!
- 石黒
- これでも高いほうだったと思います。地方だと1,500円とか2,000円とかでしたし。
- 蘭
- そうだったんですね!
- 石黒
- ステージといえば、昨年末、ニューオータニのクリスマスディナーショー、良かったですねー! 生まれて初めて行ったんですが、蘭さんも出演が初めてですよね?
- 蘭
- 初めてでした。コロナ禍だったけどあんなにたくさんいらしゃっていただいて。ホテル側も対策万全、いつもより全体の席数減らしてましたけど、でもお客さんいっぱいで。
- 石黒
- 通常のライブとは、出るほうの意識としてはまた違った感じがありますか?
- 蘭
- みなさんお酒も入られて、なんとなくリラックスした感じも伝わってくるので、コンサートの緊張感とはひと味違う楽しさ、みたいなのはありますね。
- 石黒
- いきなり「ラスト・クリスマス」から始まってぞくぞくきました! 洋楽から始まるっていうとキャンディーズ時代の世界観でしたし。大人っぽい独特の雰囲気の中で。
- 蘭
- 緊張しました、「ラスト・クリスマス」はね~。あと、通常だと客席のほうに降りて歌ったりとかもできたみたいなんですけど、さすがにコロナ禍ではそういうことはできなくて……。
- 石黒
- 「アン・ドゥ・トロワ」がきたときにはまたテンション爆上がりで(笑)。ソロデビュー後あそこで初めて披露となったので。
- 蘭
- そうですね。キャンディーズの楽曲って本当にいろんな一面を持っているというか。そしていまわたしが歌ってもそんなに恥ずかしくないっていうかね(笑)。若い女の子の歌ですけれど、それは楽曲の強みですね。
- 石黒
- 僕は、いま蘭さんがキャンディーズのどんな歌を歌われても素敵だと思っていて、たとえばすごく若いイメージの「そよ風のくちづけ」のような青春100%みたいなのでも違和感がないというか。蘭さんメインの「黄色いカヌー」歌ってもらえないかな、っていう夢があるんですけど(笑)。あのキュートな歌い方が好きで。
- 蘭
- ホントですか!? あのあたりって、アルバムで収録したっきり一度も歌ってない曲ってけっこうあったりして……。「アンティック ドール」がアルバム録音のあとはファイナルの後楽園で1回歌っただけだったり。で、ソロで41年ぶりにってなったんですけどね。
- 石黒
- ライブ初日に、あの曲を歌うかもってファン仲間に予想していたら当たりました(笑)。ご自身で作詞されてるので。「恋がひとつ」も同じ理由で。
- 蘭
- あ、たしかにそれはあるかもですねー。
今度のアルバムでは自分の作詞は2曲
ニューヨークの街とかクリスマスとか
- 石黒
- 作詞といえば、今回のセカンドアルバム「Beside you」でも、ファーストアルバムに続いてご自身の作詞もありますね。アルバムも聴いてしっかり予習してきましたが、どういうふうに着想して作られたのかなと、僕としてはまずそこが気になるわけです。
- 蘭
- 前回は3曲で、今回は2曲書かせていただきました。アルバム全体のアレンジなどを佐藤準さんが見てくださっていますが、どちらも準さんの曲を聴いて詞を付けたんです。1つは「愛して恋してManhattan」で、ちょっとオールディーズ風な曲で、聴いた時になんとなく懐かしいような、ふっとニューヨークの街が浮かんできて、ならばニューヨークに行った70年代の頃の雰囲気みたいなイメージでって。ウディ・アレンの映画も好きで、そういうことが浮かんできたので散りばめました。
- 石黒
- 『アニー・ホール』が出てきますね。
- 蘭
- そうなんです。そして登場する男女2人の関係は、ちょっと女心にうとい感じの男の人と、結婚したにはしたんだけど、みたいな。
- 石黒
- あのー…… モデルは…… ダンナさまのことでは……(笑)。
- 蘭
- いや、それは、ぜんっぜっん、違うんですけどぉ(笑)。想像ですね。
- 石黒
- 失礼しました(笑)。とにかくあのコミカルな感じはなごめますね。テンポのいいリズムにどんどん詞を乗せていくわけですか?
- 蘭
- これはさほど時間がかからなかったというか、そんなに煮詰まらずに(笑)。もちろん何日間かは苦しんでいましたけど、すぐに抜け出せました。
- 石黒
- アルバムの全10曲、バリエーション豊かでそれぞれ好きなんですけど、この曲は楽しくて一番好きかなと。つい歌いたくなリます。
- 蘭
- もう1つは最初に、冬っぽいイメージで1曲っていう話があったりして、じゃあ、書いてみます、ってなって「名前のないChristmas Song」という曲に。
- 石黒
- なるほどそれでクリスマスに。シェイクスピアの「十二夜」とか、「snow bird」なんて言葉が出てきたりで、かっこいいなあと思いました。
- 蘭
- うわー、 ホントですか? 最初、(佐藤)準さんのデモには秋の雰囲気が漂っていたんですね。でもそこから少し時間を進め、冬に近づけて、ひんやりした空気感のきらーんとした曲ができないかなあと思って。
- 石黒
- 曲が来る前には、準さんとの打ち合わせややり取りはなく?
- 蘭
- はい、まず曲が届いて、それを聴いてからのイメージで書いていきました。
- 石黒
- それでここまで膨らんでいくわけですね。
- 蘭
- 詞が先っていう形にも いつかは挑戦してみたいですけど、まだなかなか……。
- 石黒
- 今はあまり「詞先」はないらしいですが聴いてみたいですねー、ファンとしては。
トータスさんの曲のセリフ部分は
最初「蘭さんの言葉で何か」って……
- 石黒
- ご自身作詞以外の曲の話ですが、まずは、JR西日本「おとなび」のCMで流れている素敵な曲がアルバムに入ってますよね。
- 蘭
- 列車の旅の雰囲気で、ボサノバ的な楽曲で「ヴィブラシオン」ですね。 昨年のクリスマスディナーショーでも歌いましたね。
- 石黒
- そうでした! それから、詞曲ともトータス松本さんの「あなたのみかた」では、蘭さん語りのセリフがありますよね。あの試みは、他の方とはちょっと違うトータスさん目線が好きで(笑)。さすが視点がいいなあと。
- 蘭
- 最初「蘭さんの言葉で何か」って言われたんですけど思いつかなくって。考えていただきたいなあ、なんて思ってたら、じゃあ僕が書きますっておっしゃってくださって、助かったって(笑)。
- 石黒
- ご自身の言葉でっていう考え方も、すごくわかります。セリフの刺さり方というか。
- 蘭
- そして結果、ちょうどいい感じのところを書いてくださいましたね。誰かを励ましているようで、逆に歌っているわたしが励まされてるみたいな。ストレートな表現で明るいんだけどジーンとするような。自分もなんだか泣きそうになってるんですもん。なんだろう、負けちゃだめよ、って言いながら泣きそうになっちゃうわけですよね。
- 石黒
- 聴いてるほうは蘭さんに応援されてるようで、じわっと来るものはありますね。ファーストアルバムでも「おっちょこちょいな女性」っていうキャラクターをトータスさんがうまく作り上げてるじゃないですか。蘭さんイメージで!?(笑)
- 蘭
- テヘペロな、ねえ(笑)。
- 石黒
- キャンディーズの曲で蘭さんのセリフ入りだと、洋楽カバーの「想い出のグリーングラス」が好きです。訳詞は山上路夫さん。
- 蘭
- ありましたねー。「生まれ故郷に立ったら 夢がさめたのよ」とか。
- 石黒
- あとアルバム最後の、森雪之丞さん作詞、布袋寅泰さん作曲の「家路」。ラストっぽくてすごく染みますねえ。
- 蘭
- ありがとうございます。 最後にふさわしい詞、いまの私たちの年代の歌っていうかね。年齢を重ねた夫婦がそれぞれの思いがあって、それを声を大にして言うわけじゃなくっていう……。
- 石黒
- ぐっと来ますね。なにげなく2人で歩くみたいな。キャンディーズ時代から書いてらっしゃった森雪之丞さんが、年齢を重ねられ達観された感じも漂って素晴らしいですね。
- 蘭
- はい。今の、大人になったわたしの雰囲気で、布袋さんの曲で、っていう構想がはじめにあったみたいで、雪之丞さんのご提案で進んでいったことなので、それは願ったりかなったりというか、嬉しかったですね。
- 石黒
- 曲もワイルドじゃないほうの、ソフトなほうの布袋さんの「PRIDE」的なテイストで。蘭さんも歌う時に気持ち入りそうですね。
- 蘭
- アルバム全体のバランス的にも、激しめな「ICE ON FIRE」から始まり、途中ちょっと意外な一面があり、でも巡り巡って最後に家路に着く、みたいな感じですよね。ちょっと小旅行してきて最後に家に帰ってくるイメージで、やすらぎの歌。
- 石黒
- 蘭さんご夫妻が歩いてるところをイメージしておきますね(笑)。
(インタビュー・文章:石黒謙吾)
INFORMATION
伊藤蘭セカンドアルバム「Beside you」情報
伊藤蘭コンサート・ツアー2021情報