対談企画

第1回松本隆作品の魅力、キーワードは「少女マンガ」


松本隆作詞活動50周年を記念したリマインダーオリジナル対談企画、「平成生まれと昭和生まれ、松田聖子の歌に出てくる男の子、女の子」です。世代も性別も違うリマインダーのカタリベ二人の対談から、今なおファンの心を捉えて離さない歌詞の魅力について掘り下げていきます。

― 今回のテーマは「松田聖子の歌に出てくる男の子、女の子」です。世代を超えた二人のカタリベがどのようにその世界観を捉えているかというお話を聞いていきたいと思います。まず、どの楽曲が一番好きかというところからお願いします。

アヤ
私が、松本隆さんと松田聖子さんの作品で一番好きなのは「Rock’n Rouge」です。ここに来る前に改めてお二人の作品をいっぱい聴いたんですけど、ぶりっ子のイメージがある聖子ちゃんなのに他のアイドルに比べて男勝りに感じる楽曲が多いんですね。聖子ちゃんがグイグイいくというか、リードする曲が多いなって。他のアイドルの曲は “私が可愛い” “あなたから言って…” みたいな印象がありますが、聖子ちゃんは、意外と “男の子のかっこつけなんてお見通し“ ”ここが素敵ね!” みたいなものが多く、そこが聖子ちゃんらしさというか、特徴が際立っているなと思いました。
カッコつけてちょっと空回りしちゃう男の子をからかっている感じがユニークで好きだなぁと思ってこの曲を選びました。
ししゃも
実は、「Rock’n Rouge」について書いたコラムが明日、リマインダーに掲載されます(笑)。 松田聖子「Rock'n Rouge」作詞に苦労した松本隆が描くコミカルなラブストーリー この曲は、少女マンガを読んでいるようなコミカルな感覚なんですね。前作の「瞳はダイアモンド」は絵画的というか、きれいな絵が思い浮かぶ作品ですよね。それに対して、コメディを観ている感じのところがすごく面白くて、出てくる男の子の必死で頑張っている感じが微笑ましい。
発売当時もそういう感覚で見ていましたが、今回コラムを書くにあたって、聴き直してみても男女の関係が微笑ましくも爽やかな感じなんですよね。
アヤ
ありがとうございます! 私も聖子ちゃんの歌詞に出てくる男の子、女の子というテーマで頭に浮かんだキーワードが “少女マンガ” だったんです。
ししゃも
同じく “少女マンガ” ですね! たぶんこの後も “少女マンガ” というキーワードが何度も出てくると思います(笑)。
アヤ
私の中では、「♪髪にグリース光らせて…」という歌詞からグリースつけてカッコつけていてちょっとイタ可愛いカッコいい男の子みたいな感じかなと思っていて、この曲がリリースされた1984年当時、こんな男の子って、ちょっと浮いてるなー… って感じだったんですか?
ししゃも
当時、自分の周りでは、ちょっとワルい男の子のほうがモテていたんです。圧倒的に女子のウケは良かった。ただ、ここに出てくる男の子は、普段は絶対ワルじゃないのに頑張ってワルにしてる。結局それがサマになっていない感じがありますよね。イケてないというか。スポーツカーも借りてきたのかな? って思うぐらい。そういう部分も一生懸命女の子の気持ちを掴もうとしている感じがすごく好きです。
アヤ
あと、「♪1ダースもいるGIRL FRIEND 話ほどはもてないのよ」という部分も好きなんです。松本先生の書く聖子ちゃんの歌詞は、男の子の頑張りを聖子ちゃんは分かっていて、それを全部見透かした上で “私のために頑張ってくれたのね” みたいな一枚上手感を感じるんです。男の人が書く歌詞なのに女の人に夢を見てるというよりも、女の子側の気持ちになっているというか、お姉さんっぽいイメージがありますよね。
ししゃも
でも、最終的に「♪I WILL FALL IN LOVE」だから、まだ恋に落ちていないんですよね(笑)。男の視点からすると、焦らしているのか、小憎らしいなって(笑)。
アヤ
男の人から見るとそうなんですよね。これも少女マンガ的な話になるのですが、第一印象、ちょっとカッコ悪い男子とか、出逢いがキレイじゃないほうがラブコメの定番で恋に落ちますよね。未来がもう確定しているなっていう感じがあります(笑)。
ししゃも
分かります。そういうところも含め、たぶん完璧だと面白くないだろうなという気はするので、そういうとこも含めて書いていますよね。ただ、松本先生の歌詞の割には、俗っぽいというか…。CMソングというのもあるんだろうけど、前の曲との対比がすごくあって、最初聴いた時はすごくびっくりしました。
アヤ
そうなんですよね。絵画的な松本先生も作品だと、(瞳はダイアモンドの中の)「映画色の街」というフレーズだとか、アルバム『Pineapple』に収録されている「P・R・E・S・E・N・T」にある「微熱があるように頬がバラ色に燃える」とかも松本先生らしい表現だと思いました。ししゃもさんの一番はどの曲ですか?
ししゃも
2曲思い浮かんだのですが、すごく迷っています。「瑠璃色の地球」か「櫻の園」なんですけど、「瑠璃色の地球」にします。

この曲って『SUPREME』っていう結婚された後にリリースしたアルバムに入っているんですけど、それまではアイドルという印象が強かったのが、ここからアーティストになったという変化もあるし、主人公になる女性もだんだんと成長しているんですよね。で、歌詞の冒頭の「♪夜明けの来ない夜は無いさ」っていう部分があって、これを聴いたのは、自分がハタチ前、19だったんですよ。高校生ぐらいまでって立ち向かってくる困難だとか知れていますよね。悩んでも次の日には忘れているぐらいで。でも社会に出ると、その日だけで解決しないことがたくさん出てくるんですよね。「どうしよう…どうなるんだろう…」というのが続く中で、この「夜明けの来ない夜は無いさ」っていうのが凄い言葉! と思って…。

ちょうど、その頃、ピアノの調律師を目指して専門学校に通っていたんです。当時は周りと比べて、自分はこんなことが出来ていないとか、悩んでいた真っ盛りでした。そんな時このアルバムが出たので、この曲を聴いてだいぶ救われました。
アヤ
『SUPREME』というアルバムはすごく好きで、「螢の草原」「時間旅行」「瑠璃色の地球」…大好きな曲がたくさん入っています。さっきの「Rock’n Rouge」が大衆的なラブコメという話に対してこのアルバムは神聖なイメージがありますよね。その中でも「瑠璃色の地球」は数年前、映画『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』の中で広瀬すずさんがカバーして話題になりましたし、自分の中でも、癒しというか、心の奥から包んでもらうような印象がある曲です。
この前、聖子ちゃんのライブに初めて行ったんですが、そこで”ナマ”「瑠璃色の地球」を聴きました。サビの部分「♪朝陽が水平線から光の矢を放ち 二人を包んでゆくの瑠璃色の地球」からも歌っている世界観が広いのが分かります。だからこそ救われるような感じになるのが分かります。
全体的に松本先生の硝子細工のような美しい世界観が出ている歌詞ですよね。
ししゃも
この曲って、当時は自分に当てはめていたけど、その後に、阪神大震災があったりだとか、東日本大震災があったりだとか、このコロナ禍の時に、この曲ってすごく響くんですよね。世の中が堕ちている時に。松本先生は、そこまで考えて書いてはいらっしゃらないでしょうけど、常に時代に寄り添っている曲というか… スケールが大きいんですよね。それをすごく思います。
アヤ
この曲の発売時、聖子ちゃんのどんなタイミングでしたっけ?
ししゃも
結婚した翌年で、TVなどにもほとんど出てなかった時期だと思います。でも、アルバムは結構売れたんです。そして年末のレコード大賞で、最優秀アルバム賞を受賞して、その時に本人が出てきたんです。で、ナマで3曲歌ったのかな?「ローラースケートをはいた猫」と「時間旅行」と「瑠璃色の地球」だったと思います。
その時に、「この人、結婚をして一回引っ込んだのに何この輝きは(笑)」って。ふつうはそういう状況だとファンも離れてしまうし、忘れられた存在になりますよね。それなのに、その間にアルバムを出して、登場しても全く変わっていないというので、テレビに釘付けになった記憶があります。
アヤ
この『SUPREME』ってテレビに出ていない時期のアルバムとは思えないぐらいで、聖子ちゃんアルバムの中での私トップ5に入ります。本人が表舞台に出ていない時に、この輝きというのもすごく特徴的ですね。
松本隆先生も聖子ちゃんのその時に合うタイミングの作品を作ってきたと思うんですけど、当時の芸能界ではまだ珍しく、妊娠して出産して、もう一回表舞台に歌姫として戻ってくるタイミングで書いたのが「瑠璃色の地球」というのは、そういう背景と合わせても響くものがありますね。
そう考えると、松本先生は聖子ちゃんに歌詞を書くというより、蒲池法子さんがいらっしゃって、その蒲池法子さんと松本先生が一緒に作っているのが “松田聖子” なんだって思います。
だからお二人がその時のタイミングで “松田聖子” として次に世の中に出すものは何だろう? と考えていだんだろうなって腑に落ちました。
ししゃも
このアルバムの作曲、編曲って、今まで聖子さんに書いていない人が携わっているんです。アレンジャーとして大村雅朗も一切携わっていないんです。
これまでのファンを掴むのであれば、今までのアルバムを踏襲したものを出してきそうな感じですが、そこを敢えて作家を変えて、アレンジも新しいところから来たというところからも、聖子さんが勝負に出たというのは見えますよね。
アヤ
このアルバムの中では「時間旅行」で聖子ちゃん自身が作曲を手掛けていたりして、松本先生の作詞に聖子ちゃんが曲を乗せ、アイドルからアーティストになるタイミングのアルバムでもありますよね。

―「Rock’n Rouge」と「瑠璃色の地球」は作風が対極ですよね。どちらも松本先生の素晴らしさが出ているというか。

アヤ
松本隆先生の作品をいくつか聴いている中で「Rock’n Rouge」のような聖子ちゃんを主人公にして物語が作られているような楽曲があって、それとは別に「瞳はダイアモンド」や「瑠璃色の地球」のような、聖子ちゃんを聖なる存在として書いた歌詞と2パターンありますよね。
その中で少女マンガの世界観があるとしたら、それが「Rock’n Rouge」ですね。

<次回予告>
次回は、松本隆×松田聖子作品の中でも多くの人の心に印象深く残っている「赤いスイートピー」をはじめ、
様々な名曲にスポットをあて歌詞の世界を深堀していきます。

不自然なししゃも

ユーミンとPerfumeと80年代アイドルを こよなく愛する50代の大阪在住のオッサン。
3人の姉から様々なジャンルの音楽の洗礼を受け、ガキのころから流行りの音楽にはそれなりに敏感だった。音楽の仕事に就きたくてピアノ調律師になるも限界を感じて早々に挫折。
お堅くサラリーマンになるも音楽は続けたいから今もユーミントリビュートバンドで鍵盤弾き。音楽を取り上げられたら間違いなく死にます。

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ミヤジサイカ(アヤ)

昭和的サロン「ニュー・パルリー」の店主。昭和カルチャーをテーマにしたイベント・企画をオンライン上で運営する。昭和歌謡についてのエッセイを執筆。歌謡曲バーでのアルバイトを経験。昭和の音楽と共にある人の思い出を聞くのが好き。安井かずみに憧れており、六本木のレストラン「キャンティ」をきっかけに”サロン”に興味を持つ。

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司会・構成:本田隆(リマインダー)
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