対談企画
第1回松本隆との出逢い
松本隆作詞家生活50周年。「世代を超えた女性たちに松本隆が愛される理由」と題し、4回に渡ってお届けする対談です。昭和生まれでリアルタイムに松本先生の歌を聴いて育った彩さんと、平成生まれで、松本先生の世界観にどっぷりはまったルネさんとの女子トーク。鋭い視点満載で松本隆先生の世界を考察していきます。
松本隆先生との出逢いで洗礼を受けて、人格形成に大きな影響を及ぼしていく…。そんなお二人の松本先生の作品との出逢いから対談はスタートします。
― 松本隆作詞家生活50周年アニバーサリーということで、「世代を超えた女性たちに松本隆が愛される理由」これがメインのテーマになりますので、よろしくお願いいたします。 まず、お二人の松本隆先生との出逢いからお聞きしたいと思います。
- ルネ
- 私は結構明確に “はじめての松本隆” の記憶があるんです。
実家に「ジャパニーズ、フォーク&ロック大全」みたいな、高速道路のSAで売っている長いドライブ向けのコンピレーションアルバムがあって。その中に原田真二さんの「キャンディ」が入っていたんですよ。「帰ってきたヨッパライ」とかと一緒に(笑)。
それを聴いて、この曲の歌詞は、「何かが違う! 魔法がかかってる!」と思ったんで作詞のクレジットを見たら「松本隆」とあって、そこから松本隆さんの詞を意識するようになりました。
「キャンディ」に「♪夢の渦に巻き込まれて舞い上がるよ」ってフレーズがありますよね。この「夢の渦」が、心象風景のはずなのに、実際に見えるような感じがしたんです。この世の景色じゃないけど、光景が目に浮かぶ。70年代の少女マンガの一コマみたいに見えました。心象風景が絵になっていて… 恋をしている気持ちとか春の夜の空気とかが夢になって巻き上がっているのが目に浮かぶようで…「すごい!この歌詞は!」って思いました。 - 彩
- 私ははっきりとは覚えていないです。小学校4年生、5年生ぐらいからラジオとか聴くようになって、『コーセー歌謡ベストテン』という番組がFM大阪で土曜日の昼の1時からやっていて、そこから桑名正博さん、太田裕美さんなどを聴くようになりました。それで小学校6年生の秋ぐらいかな? 原田真二さんなんですけど(笑)「てぃーんず ぶるーす」あれでガツンときました。
- ルネ
- 原田真二さんって、ガツンときますよね。
- 彩
- 最初はメロディからなんですけどね。ずっと聴いていると、映像的なものが頭に浮かぶわけですよ。「♪僕のズックはびしょ濡れ」とか。で、最後に「♪それが君のぶるーす」ってあって、“ぶるーす” って何だろう? って思いました。
「♪みんな軽々しく愛を口にしても君は違うと信じた なのに君は僕の手より座り心地のいい倖せ選んだ 都会が君を変えてしまう 造花のように美しく 渇いた君はぶるーす…」
そんなフレーズから、それが「美しい」ものなのかなぁ。でもそれが “ぶるーす” なのかなぁって。 - ルネ
- 私も “ブルース” って検索しました(笑)。私は後追いですが、彩さんと同じ小学校6年生の時でした。松本隆先生のことWikipediaで調べて、どうやら「風街」ってものがあるらしいってなるんです。「風街」って少女心にグッとくるフレーズでした。
「風の街かぁ。かっこいいな」って思いながらTSUTAYAに行ったら『風街少年』『風街少女』っていうコンピレーションを見つけました。ジャケットのイラストを当時好きだった漫画家、羽海野チカさんが描いていて、「これは借りるしかないぞ!」って思って。少年のほうは男の子目線の歌。少女のほうは女の子目線の歌。こんな女の子にしかなりたくないし、「こんな男の子としか恋をしたくないぞ!」と思って… 思春期が始まった時に松本隆先生の洗礼を受けて情操教育されましたね。 - 彩
- 人格形成にものすごく関わっていますよね。私たちの頃はベストテンの番組とかでいろいろな曲が流れていて、結果的に気になる歌っていうのが松本隆さんの歌だった。私も、こうなりたいな。こんな風なの憧れるなってとか、そういうのが気付いてみると松本隆の世界だった。それこそ「風街」だった… っていうことになるんですよね。
松本先生の歌詞の世界観として、男性の目線、女性の目線というのはあると思います。ただ、この間リマインダーに「SEPTEMBER」についてのコラムを書いている時に気づいたのは意外とジェンダーレスだってことです。これ、男女を置き換えてもいいよね… っていう部分が見えてくるんです。あとは男の子から男の子とか、女の子から女の子とか、それでも通じる普遍性が私には見えます。また楽曲によってはすごく女性的な世界観だったり、男性的な世界観だったりというのもあります。南佳孝さんに提供している歌詞なんかは、すごく男性的な世界観ですね。 - ルネ
- 歌詞の登場人物に「らしさ」に縛られている人がいない気がします。
斉藤由貴さんの「卒業」がすごく好きなんですけど、絶対自分の気持ちに嘘がつけない女の子の歌ですよね。こういう時に泣いたほうがいいって分かっていても泣けないような… 自分にとって不自然であることを敢えてする人が出てこない歌だから、そこが「SEPTEMBER」のジェンダーレスで自然体な感じに共通しているように感じます。 - 彩
- 「木綿のハンカチーフ」にしても男女ひっくり返しても通じますからね。
- ルネ
- 「木綿のハンカチーフ」は自分の気持ちに嘘をついたり、折れることができなかったりする人の歌ですね。頑固者の根比べ。両者一歩も引かず(笑)。
- 彩
- そうですね(笑)。
<次回予告>
次回はお二人が、登場人物の心情や情景描写など、
70年代、80年代に放たれたヒット曲の中から松本先生の世界観をさらに深く考察していきます。
彩
1965年生まれ。雑食系オーディエンス。洋邦問わずポップミュージックの沼に堕ちて40年超。ラジオから流れる数多の作品に耳を育てられました。アイドル歌謡曲もクラシックもロックもジャズも、ポップな要素があれば年代問わず何でも聴きます。マニアックじゃない普通の人だと思っています。
郷ルネ
1994年生まれ。早稲田院生。オンライン昭和スナック「ニュー・パルリー」のママ。11歳の時、フィンガー5にシビれて以来、昭和に傾倒する日々を送る。70年代歌謡曲、80年代アイドル、グループサウンズ、渋谷系も好き。映画と古着好き。