ブラック・キャッツ
久米浩司インタビュー
第1回
音楽、ビジュアル、スタイルの三位一体。
クリームソーダから生まれたブラック・キャッツ
祝ブラック・キャッツ40周年!今回の2021年最新リマスターBOXセットリリース記念に、ブラック・キャッツのサウンドを担うキーマンだったドラムスの久米浩司さんにお話を伺うことができた。
この最新リマスターで、当時のサウンドがどのように蘇るのか、そして、原宿クリームソーダの店員同士で結成、僅か1年2か月という短い期間に進化を遂げながらロカビリーを開拓し、ゴーゴーズとのUSツアーで本場のアメリカ人を唸らせたブラック・キャッツの軌跡を辿っていきたい。
今回は、USツアーにも同行した当時のマネジャー三輪眞弓さん、今回の最新リマスター作業に携わったビクターのプロデューサー助川仁さんも交えて、今蘇るブラック・キャッツの魅力を3回に分けてお届けするロングインタビュー!
当時の世界観を再現した最新マスタリング
― 今回はブラック・キャッツ結成40周年、そして最新デジタルリマスターによるボックスセットのリリースと、ブラック・キャッツが辿った軌跡、この2つを軸にお話をうかがっていきたいと思います。
― 浩司さんは今回のリマスターをお聴きになりましたか?
- 久米浩司(以下浩司)
- まだです。
- 助川仁(以下助川)
- それではこれまでのCDと比較して聴いてみましょう。
- 浩司
- サードアルバム「HEAT WAVE」のイントロのウッドベースを聴くと変化がよく分かると思います。
(これまでのCDと今回のリマスターが続けて流れる)
- 浩司
- これ、同じヴォリュームですか? 全然違いますね。リマスター盤のほうが、本物の感じがします。これはすごい!(拍手)
- 三輪眞弓(以下三輪)
- 全然別物になってる!
- 浩司
- これが、当時レコーディングしていた音ですね。オリジナル盤は、CD化に際してデジタルでこじんまりなっちゃいましたというか、音が痩せているし、エコーの成分も乏しい。それが最新マスタリングでウッドベースの音がふくよかだし、ヴォーカルのリバーブ感も素晴らしいです! レコーディングした時のダイレクトなイメージがマスタリングで戻った感じです。
- 助川
- 僕らも色々とリマスターの作業をやりますが、このブラック・キャッツは楽しくて仕方がなかった。これが当時鳴っていた音なんだなって感じがするんです。
- 浩司
- これは、アナログだった当時の世界観を再現するためにマスタリングしたということですね。これは意義があると思います! アナログ盤の時はもう少し音が丸かったけど、これは今のゴージャスな感じにもなっているし、ウッドベースの音もハコもの楽器の響きが再現されているし、これは当時聴いていたファンには大事な部分なんですよ。 当時のファンもそうですが、今の若い人にも聴いてもらいたい。今プロデュースしているThe Biscatsでいろいろチャレンジしているところもあるので。
- 助川
- レコードの時代はカッティングって言われている作業だったものを今はデジタルに取り込んでCDや配信用に作業しているのがマスタリングという作業です。レコード発売から10年後にビクター時代のブラック・キャッツの作品はCD化されましたが、その時の作業に浩司さん立ち会われたりしていましたか?
- 浩司
- その時はしなかったですね。
- 助川
- その時は、それまでアナログでリリースされた作品をそのままCD化するという作業をバンバンやっていた時代で、だから、ブラック・キャッツに関しての本格的なリマスターは今回30年ぶりということになります。
― ブラック・キャッツはアナログでオリジナルアルバムが1981年から1983年まで発売されて、その後10年後にCD化されて、3年前に発売したボックスセット(※2018年のクリームソーダ50周年記念でボックス化した商品)も売れ続けているんですよね。
- 助川
- おかげさまで3年前のボックスは完売でした。実はそれまでも単品のCD自体もずっと売れ続けていました。ビクターには当時のことを知らない営業マンもたくさんいるんですが、旧譜としてなぜかずっと売れ続けているという状況に驚いています。
ブラック・キャッツがロックのスタンダード
- 浩司
- ブラック・キャッツがロックのスタンダートになったということですよね。ロカビリー、ロックンロールを演るなら、ここがルーツだよ。みたいな。ブラック・キャッツに限らず80年代のバンドって、今の日本の音楽のルーツになっていますよね。今と違って、他のジャンルにしても手本になるバンドの情報も探しにくかったと思います。
― 浩司さんたちがデビューされた頃ってロカビリーという言葉も浸透されていなかったですよね。
- 浩司
- ないですね。強いて言うならロカビリーと言えば、その昔に平尾昌晃さんたちのやっていたロカビリーとか、又はもっと突っ込んだ「ロックンロールの中のひとつのジャンル」という捉え方でした。
― すごくニッチなジャンルですよね。
- 浩司
- そこを特化させたバンドとかカルチャーはなかったですよね。ブラック・キャッツは大きな意味ではロックンロールなんですよ。だけど、ロックンロールを細分化したロカビリーという今までなかったところを追求して、それを日本人の感性でやったということですね。
― 日本人の感性という部分が大きいですよね。ロカビリーの中でもブラック・キャッツは独自性が大きいですよね。ストレイキャッツのようなネオロカビリー的なところもあれば、オーセンティックな部分もある。だけど、メロディは日本人の感性に合ってますよね。そこの意識はファーストアルバムからありましたか?
- 浩司
- 洋楽を聴いた時にカッコイイのは分かる。でも日本人として、歌として、考えると何か物足りない、というのがありました。単なるダンス音楽であればこれで良いのですが、日本人として曲として、「この曲いいよね!」とはならないと思っていました。だったら、本来ロカビリーが持つリズムだったり、ダンス音楽としてのグルーヴだったりを日本人のメロディに乗せてロカビリーの世界観と一緒になったらいいよねって。つまり、自分達が聴きたい音楽を追求してきたということです。
― それは、ブラック・キャッツ初のオリジナル曲となった「シンガポール・ナイト」を浩司さんが作った時からですか?
- 浩司
- そうですね。出来上った時はそういう感じですよね。「シンガポール・ナイト」って山崎社長(※山崎眞行氏 / クリームソーダ社長)が当時経営していたシンガポール・ナイトというカフェのイメージですよね。だから山崎社長にしてみても、自分達の聴きたい音楽を作っちゃえばいいんじゃないのという感覚だったと思います。
アメリカンなオールディーズだったり、ストレイ・キャッツのようなパンキッシュなものだったり、オーセンティックなロカビリーだったり…。そこに日本の平尾さんがやっていた要素がギュッと詰まっているという。
― それは、僕も後になってから気付きました。僕はリリース当時クリームソーダの大ファンだったので、お店の雰囲気をそのまま音にしているなというのが第一印象でした。それで大きな衝撃を受けました。
- 浩司
- 本当にその通りです。クリームソーダっていうのがそうなんですよ。アメリカンなカルチャーも好きだし、ロンドンのパンクからも大きな影響を受けている。かと言って、社長は日本のウエスタンカーニバルの世代じゃないですか。社長が小さい時は水原弘さんの「黒い花びら」がヒットしていて、「これが最高だ!」と言ってましたから(笑)。
今気づけばブラック・キャッツは “日本の” ロカビリーですよね。自分達が育ってきた環境の中で聴いてきた音楽の要素もぐしゃっとして入れているみたいな。
だからブラック・キャッツは「それまでのルーツをまとめて新たなルーツにした」バンドだったと思います。
― それが、音楽だけでなく、ヴィジュアルやスタイルと三位一体となってみせてくれる。そんなバンド、他にはいなかったですよね。
- 浩司
- いたかも知れないけど、アメリカンオールディーズが好きで、その焼き直しをプレイするバンドっていうのが多かったですね。しかし、クリームソーダという洋服屋が、いろいろな要素がミックスされていたから、音楽もそれと一緒で。
毎日そんなこと考えているんで、生活自体がそうなってくるんです。朝お店に行って「この服いいよね!」とか、50年代のカルチャーが大好きで、それしか考えてない人達の集まりなので、うちに帰っても同じこと考えているという(註:ブラック・キャッツのメンバーはデビュー後もショップに立ち続けた)。
音楽に関してもお店では、ピュアな50年代のロカビリーからイギリスのネオロカビリーからごっちゃに流していて、それがミックスされたような音楽がいいなと思っていました。それで普通のコピーだとつまらないと思っていたので、色々な要素が入っていく。当時はジャパロカ(ジャパニーズ・ロカビリー)という言葉もなかったけど、それのハシリになっていったと思います。
NOBODYがプロデュース、ブラック・キャッツ幻の4枚目
― そこから、浩司さんも在籍していたマジックとか、ブルー・エンジェルとか、様々なバンドが出てきましたよね。 色々な要素が入っていたということでしたが、僕が初めて聴いたロカビリーがブラック・キャッツだったんです。だから、僕らの世代には「ブラック・キャッツがロカビリーだ!」という人が多いと思います。だから、そこからブラック・キャッツが影響を受けたバンドを聴いていくと、広がりが見えて楽しいというのがあります。
- 浩司
- そうですね。ブラック・キャッツの時もロカビリーしか聴かないのではなく、60年代のポップスであったり、マージービートであったり、その辺は聴きまくって、ありとあらゆるコード進行を覚えました。ブラック・キャッツ活動期の最後の方はNOBODY(※80年代以降多数のヒット曲を生んだコンポーサー / プロデューサー・チーム)の二人から色々学ぶことがありました。彼らが練習に来て、曲の作り方やギターコード進行など音楽の勉強をしましたね。それまでは何も知らなかったので。
― ブラック・キャッツの4枚目があったとしたらNOBODYのプロデュースだったということですよね。
- 浩司
- 4枚目は必ずNOBODYだったはずです。曲も作り始めていたんですよ。NOBODYが定規で、ギター・フォームでコード進行をずらしてキーを変えていく早見表を作ってくれて、「君たちは勉強していないからこれで覚えなさい」って(笑)。
- 三輪
- ブラック・キャッツは先生陣がすごかったですよね。ギターが土屋昌巳さん、アン・ルイスでもギターを弾いていたDEKAPANさん(依田稔)、ツイストのマッちゃん(松浦善博)、桑名正博のバンド、ティアドロップスにいた東山光良さんに林敏明さん…。それにサンハウスの柴山(俊之)さん…。
― 柴山さんとも関わりがあったんですね!
- 浩司
- 一番最初に高垣さん(当時のビクターのディレクター)が柴山さんを紹介してくれて「プロデュースしてもらうの、どう?」みたいな。あと近田春夫さんも紹介して頂いて…。その時、僕も若くてクソ生意気だったから、「よく分かんないっすね。この人たちと組まなくてもいいんじゃないっすか」なんて高垣さんに言った覚えがあります(笑)。
- 三輪
- マッちゃんなんかは気を遣ってくれて、OTTOに「OTTOはどんな音楽好きなの?」って聞いても、「嫌いっすね、音楽なんて」って言ったり、もう会話にならなかった(笑)。
- 浩司
- 自分たちが一番!みたいな(笑)。
― そういう意識がアルバムにも出てましたよね。ティーンエイジャー特有の熱量がぎっしり詰まっていたから、クリームソーダに行っている不良の子たちっていうのは、その熱量を感じていたと思います。
- 浩司
- 本気で音楽(の理屈)を勉強していたら挫折するじゃないですか。自分たちがいかにダメかというのが分かってしまうので。でもその時は分かっていなかったから、「音楽は理屈じゃない」と。「カッコ良くないとダメ」というのがあって、他のバンドを見ても、カッコ良くないからダメみたいな(笑)。
― 見た目がすべてを表していたというのがブラック・キャッツにはありましたよね。ファッションもそうだし、ウッドベースにスタンディング・ドラムで一列に並んで演奏するというステージングからも…。
- 浩司
- 余計なこともやりますからね(笑)。バク転したり、発想がユニークでしたよね。
土屋昌巳のプロデューサーとしての手腕
― 話が戻りますが、土屋さんはどのような経緯でしたか?
- 浩司
- 土屋さんも山崎社長の人脈でしたね。土屋さんってヴィジュアル系みたいなイメージあるけど、あの人完全にロックな人なので。ジャズからロカビリーから、マニアックに消化している人なんです。だから「この人ロカビリーも分かるんだ」みたいに当時も感じました。(土屋さんに)自分たちの好きな音を聴いてもらうと「カッコいい!」ってのめり込むんですよ。自分たちがカッコいいと思う感覚を分かってくれる人でした。マジック(後に浩司さんが在籍したロカビリーバンド)で一緒にアルバムを作った時にそれが分かりました。自分たちがカッコいいと思う音を再現するのにはどうするのかというのを具体的に教えてくれましたね。機材にしても、エコーはスタジオにあるデジタルやアナログのディレイを使うのではなく、テープ・エコー(註:テープに録音した音をループ再生することでアナログ的にディレイを生み出す機材)を持ってきたり、そうすると音の作り方が変わってくると…。
土屋さんがプロデュースしたマジックのアルバム(※『ROCK’A BEAT CAFÉ』)もそれまでと全く違いますよね。誰がどう聴いてもアナログで、太い音でふくよかな音。しかも”一発録り”しか許さない。練習1か月、レコーディング5日。手直しもダメみたいな。
― そうやって『ROCK’A BEAT CAFÉ』が完成したのですね。
- 浩司
- 土屋さんと一緒に1か月ぐらいリハに費やして、そのままロンドンに行って、ほとんどが1テイクか2テイク。それで終わりだから、その時の勢いだとか緊張感がすべて凝縮されている。
ブラック・キャッツもそういう時代の空気感だとかスピリッツだとかが、たかが音楽なんだけど、そこにギュッと入っているんですよね。
僕は自分の後ろを振り返るのが嫌いで過去のものを聴いたりしないんです。だからブラック・キャッツも聴かなかった。ミュージシャンとして過去の作品は排泄物と同じで終わったものと思っていたんです。でも、最近聴いてみたんですよね。すると、「これは真似できない!」と。音楽的にいくら上達しても、このブラック・キャッツの演奏と感性に勝てるものを作れるのか? と言えば、もう無理だと思いました。理屈じゃない勢いだとか、時代背景だったり、キラキラ感だったり…。
(インタビュー・構成/本田隆)