11月21日

赤い口紅の衝撃!井上陽水「あやしい夜を待って」ジャケットデザインは石岡瑛子

16
1
 
 この日何の日? 
井上陽水のアルバム「あやしい夜をまって」がリリースされた日
この時あなたは
0歳
無料登録/ログインすると、この時あなたが何歳だったかを表示させる機能がお使いいただけます

 
 1981年のコラム 
1981年秋冬の全米ビルボードチャート、歴史に残る熾烈な首位争い!

ツッパリと笑いのマリアージュ、アラジンとビー・バップ・ハイスクール

リンゴ・スターの心地よさ、立ち止まってバラの香りを嗅いでごらん?

駆り立てられるこの一瞬、トワイライトは朝に向かうための時間

RCサクセション「BLUE」ー 熱狂と孤独、その向こう側にある一筋の光

シュガーの歌った江戸っ子流ほめ言葉、くたばっちまえ アーメン!

もっとみる≫



photo:FOR LIFE MUSIC ENTERTAINMENT  

聴くほどにクセになるヴォーカル、井上陽水「ジェラシー」


母親の存在は大きく考え方や行動に影響を及ぼす根源だと思います。私の母親は、気に入った音楽はレコードプレーヤーをオートにしてシングルA面を何時間も繰り返し聴いていました。私の好みに関係無く母の好きな曲が記憶に残ってしまう… そんな音楽環境でした。

たとえば、岩崎宏美「すみれ色の涙」、南こうせつ「夢一夜」、中島みゆき「臨月」… などは、延々とリピートの嵐でした。そんな中、私が気になって延々とリピートされつづけても逆にドップリとハマったのが井上陽水「ジェラシー」でした。当時6歳だった私にとって、井上陽水の曲に接するのは初めて。

湿気というか、ネットリというか、井上陽水のヴォーカルは今思い返せば、“珍味” でした。噛むほどに味が出る酒の肴のように、聴くほどにクセになる… と言ったところでしょうか。加えてメロディーがとてもサラッとしていて心地が良く、ピアノと井上陽水の歌声だけで始まるイントロにグッと聴き入ってしまい、後に続く流れるようなメロディー展開で一気に虜になってしまいました。

そして、私は幼いなりに歌を解釈をしようともがきます。特に「流れるのは涙ではなく汗」というフレーズが気になって仕方なかったことを覚えています。

「悲しい歌だよね」「女性が主人公? 男性目線?」「なんで泣かないの?」「愛がジェラシーなの?」「え? 裏側?」… 等々、歌詞カードを読みながらも当然理解ができず、「ジェラシーって何?」と母親に聞いてもその答えは曖昧…。メロディがとても美しいと感じながら、マセた私は「普通の恋愛ソングではない」とも感じて聴いていました。

赤いダイヤモンドに真っ赤な口紅、収録アルバム「あやしい夜をまって」


後日、母親が「ジェラシー」が収録されたアルバム『あやしい夜をまって』を購入しました。母はそれを早速テープに録音し、家でも車でも聴くようになりました。ところがです。私はアルバム『あやしい夜をまって』のジャケットが、とにかく怖かったです。

赤いダイヤモンドと海外の女性とおぼしき顔の下半分、そして物憂げに開かれた口には真っ赤な口紅が… それらが30cm四方のLPジャケットにドンっと配置。また、ジャケット自体も手触りがちょっとザラついていたのも印象的でした。当時の私にとって、“観るのも、聴くのも怖いもの” に入れたくなる部類でした。

でも、怖いもの見たさ? それとも聴きたさ? きっと両方だったのでしょう、私は、母親が『あやしい夜をまって』を聴かなくなってからも好んで聴いて、いつの間にか井上陽水にハマっていました。

意外なところで線は繋がるもので、後年になって私が好きになった映画『ザ・セル』や『落下の王国』で目を奪われた衣装デザインを担当していた石岡瑛子が『あやしい夜をまって』のジャケットデザインを担当していたことを知り驚きました。

ジャケットデザインは石岡瑛子、後に日本人初のグラミー賞受賞!


石岡瑛子はアートディレクター兼デザイナーとして資生堂をはじめパルコや角川書店の広告などで活躍しています。それは50歳以上のリマインダー読者の皆さんには記憶されている方が多いことと思います。

それと同時に音楽のジャケットデザインも担当しており、たとえば、マイルス・デイヴィスのアルバム『TUTU』のジャケットデザインで、1987年の第29回グラミー賞 最優秀アルバムパッケージを受賞しています。マイルスの顔のアップという、大胆でインパクトを持った記憶に残るジャケットをはじめ、ジャズピアニストのチック・コリアのライブアルバム『CIRCLE “Live in Germany”』『CIRCLE “gathering”』の2枚のアルバムでは、アルバムタイトルにふさわしい球体様のデザインを施し、こちらもインパクトのある作品を創り上げました。

振り返ってみると、一瞬見ただけで記憶に残る石岡瑛子のデザインに、当時子供だった私は “怖い” と思いながらも、このジャケットデザインに魅力を感じていたんでしょうね。怖いもの見たさと聴きたさに溢れ、タイトル通り “あやしい感じ” がして、まさしく “大人のための音楽” に触れている気にさせてくれるアルバム、それが『あやしい夜をまって』だったのです。

不思議な世界に迷いこんだかのような歌詞「Yellow Night」


『あやしい夜をまって』を聴くなかで、1曲目の「ジェラシー」以外にお気に入りの曲ができ、B面を再生することも多くなりました。なかでもB面3曲目「Yellow Night」は、アレンジャーに矢野誠を迎えています。非常に音数が少ないメロディーと歌詞。そこに乗せてくるのは口笛らしき音と過剰なまでのシンセサイザーの音色。
と思いきや、サビに入るとアコギで美しいメロディーを歌い出しますが、サビ終わりに何かが崩れていく音を入れるなど、前衛的… というか実験的な楽曲です。井上陽水が描き歌う世界も、謎の扉を開けた先に不思議な世界に迷いこんだかのような歌詞…。

自分の好きな子は、
「夏でもミンクを着たがる」
「赤いあの娘の口からダイヤがころがる」
「泣けば瞳の奥からルビーが飛び散る」
「あやしい夜を待って あの娘はひとりでエビを食べている」
この曲の主人公はそんな “不思議ちゃん” に恋していることがわかります。

そしてある時気づいたんです。この曲が『あやしい夜をまって』のタイトルソングだったんだ… と。ジャケットを見直すと、確かにダイヤモンドと、印象的な赤い濃い口紅の女性が……。

本能の赴くまま、リアルな人間の欲求を表現


触るだけでも怖く感じたジャケットを自ら手に取り、井上陽水にはまっていった理由は、“大人の恋愛=セクシャルな内容” をオシャレに表現していた点にあるのではないかと思っています。

曲の物語の主人公は、どこか浮世離れした不思議ちゃんが出てきますが、その不思議ちゃんを通じて、本能の赴くままのリアルな人間の欲求を表現していたこと。そして何十年経っても変わらないサウンドと、甘い井上陽水の声に関心をもち惹かれたからだと。

「マセた子供だったんだなぁ…」と、今でも『あやしい夜をまって』を聴く時には思い出し笑いをする私です。

最後に余談ですが、『あやしい夜をまって』のジャケットデザインを担当した石岡瑛子の展覧会が東京都現代美術館で2020年11月14日~2021年2月14日まで開催されています。私も是非行きたいと思っています。



2020.11.20
16
  Apple Music
 

Information
あなた
Re:mindボタンをクリックするとあなたのボイス(コメント)がサイト内でシェアされマイ年表に保存されます。
カタリベ
1975年生まれ
林ともひと@muzikrecord
コラムリスト≫
32
1
9
8
2
80年代の井上陽水「ライオンとペリカン」官能を刺激する濃密で淫靡な世界
カタリベ / 前田 祥丈
21
1
9
8
6
フュージョンファンクも悪くない「TUTU」は私にとっての初マイルス!
カタリベ / DR.ENO
26
1
9
7
8
井上陽水とwhite、忘れられないあの日のキャッチボール
カタリベ / 鎌倉屋 武士
53
1
9
8
4
井上陽水のめくるめく官能、大人のオシャレを濃縮した「9.5カラット」
カタリベ / 広瀬いくと
44
1
9
7
8
ターニングポイントは「white」真の超人に変わっていく井上陽水
カタリベ / 山口 順平
68
1
9
8
8
田村正和と井上陽水の力技「ニューヨーク恋物語」にメロメロ ♡
カタリベ / 平マリアンヌ
Re:minder - リマインダー