その昔、合コンの時に「オヤジの小言と、安いウィスキーと、俺の良さは後から効いてくる」と言い放った森田君(実名)は廻りからドン引きされていた。それにつけても森田君とは安いウィスキーをよく飲んだものだ。当時のウィスキーには等級があり、特級、1級、2級に分かれていた。メーカー各社は貧乏学生の為に「Q」や「コブラ」「NEWS」といった2級酒を大量に生産してくれていた。
森田君の下宿は、木造2階建てで廊下に洗濯機が置いてある昔ながらのアパートであったが、大学から近かったこともあり、毎夜誰かしらが彼の下宿で飲んでいた。大学3年生の夏休み、彼は一ケ月の米国留学で下宿を留守にしていのだが、鍵が洗濯機の中に隠されていたことは周知の事実であったので、その鍵を使って中に入り、夏休み中も誰かしらが彼の下宿で飲んでいた。
さて、ウィスキーはナッツなど塩辛いものとも相性が良いし、チョコレートなどの甘い物とも相性が良い。シチュエーションとしてはハードボイルド小説などの読書とも相性が良いし、アウトドアでたき火を囲みながら嗜むのも様になる。そこに「これぞウィスキーとの相性バツグン決定版!」とばかりにリリースされたのが、アースシェイカーの「ウィスキー・アンド・ウーマン」(1985年)である。
確かにウィスキーの世界観から見ると、ウィスキーとウーマンは容易に想像できる組合せである。河の畔にある薄暗いホテルのバーで、コートを着たままカウンターでオンザロックを一人飲んでいると、後から赤いドレスを着た女性がやって来て隣の席に座る。しばらく飲んだ後、私のコートのポケットから部屋の鍵を抜き取り「先に行ってるわね」とウインクしてバーを出て行く。……いくらでも妄想が膨らむ組合せである。
しかし、この時のウィスキーは最低でも「ボウモア17年」か「グレンフェディック19年」のシングルモルトであって、決して安価なブレンデッドウィスキーではない。アースシェイカーの歌う「ウィスキー・アンド・ウーマン」の酒が「安いウィスキー」であったならば妄想の方向が次のようになる。
女房「ちょっと、また飲んできたの? いい加減にしなさいよ、何時だと思ってんの(怒)」
旦那「そんなに怒るなよ、こっちも付き合いってものがあるんだよ。それより寝酒にもう一杯だけ飲んでもいい?」
女房「勝手にすれば。この穀潰し」
と言った感じになり、アースシェイカーのタイトルも「ウィスキー・アンド・女房」となっていただろう。
2016.10.04
YouTube / Sambora Kwok
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