8月27日

秋元康の手腕が唸る “うしろゆびさされ組” の逸品!読みは「なぎさのかぎかっこ」

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1986年、オリコンチャートに表れた特殊な現象とは?


夏は海、冬はスキー。1980年に女帝ユーミンが提唱した『SURF&SNOW』の価値観を後押しするかのように、政財界も内需振興を目的としたリゾート開発をガンガン進めたのが80年代後半のことだった。

若い男女を乗せたホンダ・プレリュードがカーステレオでサザンやタツローをかけながらリゾート地を目指して海岸通りを疾走する―― という、まるでトレンディドラマのような夏物語。特に1986年夏は、そんな若者の憧れを反映したかのように海をテーマにした多彩なヒット曲が生まれた。

カルロス・トシキをヴォーカルに迎えた1986オメガトライブ「君は1000%」、杉山清貴「さよならのオーシャン」、KUWATA BAND「BAN BAN BAN」、TUBE「シーズン・イン・ザ・サン」等々。80年代を代表する “夏アーティスト” が競うようにチャートを盛り上げたのだ。

一方、歌謡曲ファンの間で1986年といえば、オリコンチャート全52週のうち36週の1位をおニャン子クラブ関連の楽曲がジャックするという前代未聞の異常事態が発生した年としても知られている。

それは総合チャートの『ザ・ベストテン』や『ザ・トップテン』のランキングを眺めていても見えてこない、レコード、CDの売り上げに特化した、オリコンだけに表れた特殊な現象だった。

おニャン子クラブの派生チーム、うしろゆびさされ組


首謀者はもちろん秋元康だ。10代の頃から多数の人気番組に企画、構成で関わっていた若き天才は、実質的なプロデューサーを務めたバラエティ番組『夕やけニャンニャン』に出演する女子学生たちを “おニャン子クラブ” としてデビューさせると、ソロ、ユニット名義で次々とレコードをリリース。その勢いは瞬く間に社会現象と化していった。

秋元康は現在のAKB、坂道グループと同様、おニャン子関連ほとんどの楽曲について作詞とプロデュースを担当。中でも遊び心をちりばめたのが、派生ユニットのひとつ、“うしろゆびさされ組” だろう。

メンバーは整った顔立ちの美人・高井麻巳子と、低身長で童顔の “ゆうゆ” こと岩井由紀子という凸凹コンビ。もともとはアニメ『ハイスクール!奇面組』開始に乗じた企画ユニットだったという。

デビューシングル「うしろゆびさされ組」こそ最高5位に甘んじたものの、おニャン子旋風の吹き荒れた1986年は「バナナの涙」「象さんのすきゃんてぃ」が2作連続1位を獲得。そして8月、ヒットチャートを席巻する海ソングに乗っかるようにリリースした4作目が「渚の『・・・・・』」である。

秋元康一流のセンスが光る歌詞、タイトルは「なぎさのかぎかっこ」


初見じゃ絶対に読めないタイトルは「なぎさのかぎかっこ」と読む。生マジメな大人社会を茶化すような秋元一流のセンス。特に本曲は数多あるおニャン子関連曲のなかでも作詞家・秋元康のエグさが最大級に発揮された作品ではないかと思う。

「かっこ」を連発する能天気な冒頭とは一転、マイナー調で愛の告白シーンを描いたAメロ。さらにBメロでは以下のとおりセンチメンタルな情景描写が続く。

 夕陽の絵の具に塗り変えられた
 油絵みたいな 波打ち際に
 足跡が…

目に浮かぶのは美しい夕暮れどきの渚。「本業は作詞家」と公言する秋元らしい、さすがの表現力である。

さて、問題は「足跡が」に続くフレーズである。サビへの橋渡しとなる重要なこの箇所にどのような言葉をはめるのかは作詞家の腕の見せどころだ。ベテランの作家先生ならいかにも抒情的な日本語を使いそうだが、天才秋元は思考のぶっ飛び方が違う。

なんと秋元は「足跡が…」の「…」、つまり三点リーダーをそのまま「テンテテンテテ〜ン」と読ませたのだ。

シリアスムードから能天気への大胆な切り替え。マジメ(緊張)とおちゃらけ(緩和)の使い分けは、まさにバラエティ番組の笑いそのもの。こんな発想ができるのは秋元自身が超一流の放送作家でもあるからに他ならない。

再評価すべき、令和に語り継ぎたい隠れた名曲


「渚の『・・・・・』」は初登場1位、100位以内9週とそれなりに粘りは見せたが、目立った売り上げを記録したわけではない。おそらく一般認知度は低く、サビだけ聴いても魅力が伝わりにくいのも確かだ。ただ、フルで聴けば作詞家・秋元康が仕掛けた構成の妙に気付く。ナメられがちなおニャン子関連曲の中でも、再評価すべき一曲だと思っている。

うしろゆびさされ組は翌1987年4月の高井卒業に伴い事実上の解散。同年8、9月におこなわれたおニャン子本体の解散コンサートツアーで限定的に再結成され、デビュー曲「うしろゆびさされ組」、そして「渚の『・・・・・』」の2曲を披露した。9月20日に国立代々木競技場第一体育館でおこなわれた伝説の最終公演では目を潤ませながら本曲を歌う2人の姿が感動的である。しかしその後、一度も再結成することなく今日に至る。

リゾート地を目指すプレリュードのカーステレオで、イケてるカップル達がこの曲を鳴らしていたかといえば多分 “NO” だが、あの頃特有の軽薄さを味わうにはピカイチの逸品。令和にも語り継ぎたい隠れた名曲だと個人的には思うのである。かっことじとじ。



2021.03.23
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カタリベ
1985年生まれ
広瀬いくと
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