3月21日

岩崎良美「タッチ」アニメのタイトルバックと一緒に聴くのが一番!

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社会現象化したフィクションのキャラクターの死


フィクションのキャラクターの “死” が、社会現象化することがある。

1967年4月9日―― この日、放送された『ウルトラマン』(TBS系)の最終回で、ウルトラマンは宇宙恐竜ゼットンとの戦いに敗れ、絶命した。

1970年2月15日―― この日発売された週刊少年マガジンに連載中の『あしたのジョー』で、力石徹は過度な減量がたたり、試合後に息を引き取った。

1982年12月22日――この日発売された週刊少年サンデーに連載中の『タッチ』で、上杉和也は子供を助けようとして交通事故に遭い、帰らぬ人となった。

―― いずれも、作品の中だけでは収まり切れず、広く人々の間で“事件”として語られ、やがて伝説になった。先の2つは、1967年生まれの僕自身はリアルタイムでは接していないが、3つ目は中学3年生だったので、よく覚えている。

「きれいな顔してるだろ」

病室のベッドに横たわる和也の顔を覆う布をめくった浅倉南に、上杉達也がそう語りかける。このシーンは南と達也の2人だけで進み、南はひと言も発しない。2人は涙も見せない。ただ、静かな時間だけが流れる。

「ウソみたいだろ。死んでるんだぜ。それで」

―― その日、僕が登校すると、教室は和也の死でもちきりだった。誰かが早朝、コンビニで購入した少年サンデーが回し読みされていた。唖然とする者、憤慨する者、軽くパニくる者、女子の中には涙を浮かべる者もいた。だが―― 僕は正直、「だろうな」という感想だった。前年の夏に『タッチ』の連載が始まった当初から、「和也が連載途中で死ぬ」という噂がまことしやかに流れていたからだ。当時、僕と同世代の人たちで、噂を耳にした人たちは少なからずいたと思う。

さて―― 件の号が発売されると、小学館の週刊少年サンデー編集部には、読者から抗議の声が殺到したという。人気作品の宿命である。とはいえ、かつてアニメ『鉄腕アトム』の最終回で、人類を救うためにアトムがロケットと共に太陽に突入するラストシーンを描いたら、お茶の間からアトムの死を惜しむ声がフジテレビに殺到し―― これに憂慮した手塚治虫先生が、アトムが宇宙人に助けられる後日談を描くと、今度は読者から「なーんだ」とガッカリされたという。つくづく、ファン心理というのは難しい。

野球漫画で、三角関係で、一つ屋根の下で暮らす青春ストーリー「タッチ」


思えば、80年代前半のあだち充ブームは凄かった。最初に火が点いたのは、三角関係を描いた『みゆき』である。タイトルが大きくあしらわれたコミックの装丁はオシャレで、教室では男女で回し読みする姿がよく見られた。そう、男女双方をターゲットにしたのが、あだち作品の勝因とも。異性との話のネタを探していた中学生と相性がよかったのは、そういうことである。

そこから、あだち作品をさかのぼって、年ごろの男女が一つ屋根の下で暮らす『陽あたり良好!』や、野球漫画の『ナイン』も注目され、そして―― 満を持して1981年夏に連載が始まったのが、その3つをいいとこ取りした『タッチ』だった。野球漫画で、三角関係で、一つ屋根の下で暮らす青春ストーリー。連載1話目から注目を浴びた、初めてのあだち作品でもあった。なお、登場するキャラクターがどの作品も同じで、“あだち一座”と揶揄されたのは言わない約束だ。

あだち作品はメディア展開にも優れていた。『陽あたり良好!』が1982年3月に日本テレビでドラマ化(伊藤さやかサンが可愛かった!)されると、『みゆき』も翌83年3月にフジテレビでアニメ化され、更に同年9月には東宝で実写映画化された。そして―― こちらも満を持して1985年3月、フジテレビでアニメ版『タッチ』が始まる。日曜夜7時の同局伝統のアニメ枠だ。そこで僕らは、かの名曲と出会うことになる。

作詞:康珍化、作曲:芹澤廣明、岩崎良美が歌う同名タイトル主題歌


 呼吸を止めて1秒
 あなた真剣な目をしたから
 そこから何も聞けなくなるの
 星屑ロンリネス

そう、岩崎良美サンの歌う同名タイトル主題歌「タッチ」である。作詞:康珍化、作曲:芹澤廣明。少々前置きが長くなったが、今回は“アニソン”史上に燦然と輝く、かの名曲の話である。

一聴して感じるのは、どこか懐かしくもあるメロディの秀逸さ。王道のアニソン的でもあり、70年代の歌謡曲風でもある。だが、作曲者の芹澤廣明サンが手掛けたアレンジは80年代のオンタイムのもの。恐ろしく恐ろしくカッコよく仕上がっていた。

ちなみに、発売元のキャニオン・レコード(現:ポニーキャニオン)は、同曲を非課税となる童謡(ようするにアニソン)扱いとしてリリースしたが、これに東京国税局が反発。「番組から独立して聴ける若者向けの曲」と判定した結果、物品税が追徴された(なんと4,000万円!)という。要は売れたからである。売れたものに、国税は厳しい。オリコンこそ最高12位に止まったが、年間39位とロングヒット。売上25万枚弱は、岩崎良美サンにとっても自己最高セールスである。繰り返す。売れたものに、国税は厳しい。

アニソン狙いのドラマチックな詞と相性の良い実力派歌手、岩崎良美


とはいえ、やはり同曲は、アニメのタイトルバックに乗せて聴くのが一番だ。

まず冒頭、コンマ5秒くらい無音のシーンがある。背景は、校舎の屋上から鳩が飛び立つところ―― この一瞬の静寂が堪らない。そこへ、強めのギターリフが突き刺さり、疾走する足元のアップになる。ここまでがイントロ。あえて無音を作ることで、ギターリフが際立つ構成になっている。この間、聴き手の期待感は一瞬でMAXに。名人の仕事だ。

そして歌が始まる。岩崎良美サンの歌声は抑揚が効いて、リズミカル。更にアニソンに相応しいパンチも兼ね備えている。当初、発売元のキャニオンは、同曲を所属する新人歌手のプロモーションの場にしたいと考えていたが、これに総監督の杉井ギサブローさんが猛反発。結局、実力派歌手を起用する方針に変更され、岩崎良美サンに落ち着いたという。

これが正解だった。彼女は、康珍化サンの書くアニソン狙いのドラマチックな詞との相性が抜群にいいのだ。歌い出しの“呼吸を止めて1秒 あなた真剣な目をしたから”の一節からもう、僕ら聴き手の胸は掴まれる。ちなみに、作者のあだち充先生は、かねてからの岩崎良美ファンだったそうで――。

それにしても、イントロに続くタイトルカットの12秒ほどのシークエンスが実に素晴らしい。メインの3人が順番に登場するが、普通、主人公が最初に顔見せするところ、まず弟の和也が振り返る。続いて南、シンガリが達也である。注目すべきは、タイトルの入れ方。なんと、主役である達也の顔を隠してしまう。面白い。達也の輪郭のシルエットだけが浮かび上がり、顔の部分に“タッチ”―― 意味深である。

この手の置きに行かない、攻めのクリエイティブを、俗に “クリエイティブ・ジャンプ” と呼ぶんですね。今日でも「神オープニング」と絶賛されるアニメを生んだのは、杉井ギサブロー監督を始めとする、プロフェッショナルたちが各々の持ち場で100%の仕事をした結果である。

おっと、冒頭からまだ19秒しか進んでいないのに、これだけ文章を費やしてしまった。全てやってたら朝までかかってしまう。この作品に限らず、アニメのオープニングって、半端なく時間とエネルギーをかけて作られているので、掘りがいもあるというもの。皆さんも、お時間のある時にぜひ。

上杉和也と共にあった主題歌「タッチ」


最後に、もう1シーンだけ紹介して、このコラムも締めたいと思う。それは、51秒から58秒にかけてのわずか7秒のシークエンス。歌詞で言えば「手をのばして 受けとってよ」のところ。川べりの鉄橋が描かれ、走る鉄道目線からの線路、鉄橋を下から見たアングル―― と短いカットが続いて、橋台にもたれる南にガーッと寄って、号泣する横顔のアップで終わる。

そう、和也が亡くなって、南が初めて見せた涙のシーンだ。鉄橋を選んだのは、泣き声を誰かに聞かれたくなかったからだろう。同作品中、南が感情を露わにする唯一のシーンと言っていい。

これ、アニメのオープニングでよくある、いわゆる “予言カット” なんですね。後に本編に出てくると思われるカットを先行して描いておくもの。普通は、本編で使われないケースも多々あるけど―― ちゃんと出てきました。第1部最後となる27話「短かすぎた夏…カッちゃんにさよなら!」に、まんまオープニングのシーンが登場します。ちなみに、この回、視聴率が31.1%もあったんです。

そして、岩崎良美サンの歌う同名タイトル主題歌「タッチ」は、この27話をもって退場。第2部が始まる28話から、再び良美サンが歌う「愛がひとりぼっち」バトンタッチされた。その意味では、主題歌「タッチ」は、上杉和也と共にあったと言えるだろう。

意外に思われるかもしれないが、『タッチ』は和也が亡くなってからのほうが長い。コミックでは和也は7巻で亡くなり、最終回は26巻。アニメ版は26話で亡くなり、最終回は101話である。その割に、和也と過ごしたエピソードの印象が強いのはなぜだろう。

和也も、主題歌「タッチ」も―― 退場こそ早かったが、今も人々の中に生き続けている証しである。

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2021.09.23
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カタリベ
1967年生まれ
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