10月7日

鬼気迫る松田優作、映画「ブラック・レイン」でマイケル・ダグラスと高倉健を凌ぐ存在感

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松田優作ハリウッド進出作「ブラック・レイン」


1989年11月6日、松田優作、急逝。この悲報にショックを受けたのは筆者だけではないだろう。なにしろ、ハリウッド進出作『ブラック・レイン』が劇場公開されヒットを飛ばしていた時期。自分も映画館でこれを観たが、ビックリするほどインパクトのある悪役を演じた優作に改めて惚れ込んだ。今後、ハリウッドでどんな活躍をするのだろう? そんな期待が高まっていた矢先の訃報。それだけにショックはデカかった。

『俺たちの勲章』『太陽にほえろ』出演時のリアルタイムに間に合わなかった自分の世代にとって、松田優作はムービースターだ。1979年は自分が映画にのめり込んだ年だが、『乱れからくり』『俺たちに墓はない』『蘇る金狼』『処刑遊戯』と、この年だけで4本に主演。いずれもハードボイルドな個性が映える作品で、同年に放映されたTVシリーズ『探偵物語』のイメージも手伝い、とてつもなくクールな俳優のイメージが中学1年のマナブの心にシミついた。

翌年の『野獣死すべし』、次の年の『ヨコハマBJブルース』までが優作のハードボイルド時代だが、とにかくかっこよかった。1960~70年代、ヤクザ映画を見た後の観客が高倉健や鶴田浩二、菅原文太になりきって映画館から出てきていたという話をよく聞くが、80年代でそういうグルーヴを観客に与えたのは優作以外にいないのでは。実際、真似したくなってくる仕草も多い。『野獣死すべし』で “リップ・ヴァン・ウィンクルの話” をする際の見下すような目つきや、「あんた、ツイてる」というセリフの発声は記憶への焼き付きも強く、中2の自分もしばし真似してみたりした。言うまでもなく、似てないのだが。

マイケル・ダグラスと高倉健、日米トップスターの共演。監督はリドリー・スコット


前置きが長くなったが、本稿の主役である『ブラック・レイン』に話を進めたい。古くは『ブレードランナー』、最近では『ハウス・オブ・グッチ』を手がけた鬼才リドリー・スコットが監督を務めた本作は、ニューヨークと大阪を股にかけるサスペンスアクション。NY市警の刑事ニックとチャーリーは、現地で殺人を犯した日本人ヤクザ、佐藤の護送のため大阪に降り立つ。ところが、到着早々、佐藤は仲間の手引きで脱走。ニックらは大阪府警の刑事、松本とともに佐藤を追跡する…… というお話。

主人公ニックに扮するのは『ウォール街』のマイケル・ダグラス。彼と行動を共にする松本役には高倉健。これだけで、もう日米トップスター共演だ。ワイルドな不良刑事を体現するダグラスも、マジメでストイックな個性を発揮する健さんも、確かにかっこいい。しかし強烈に目を引き付けるのは、佐藤に扮した優作の方だった。

ダイナーに現われる登場シーンからして不敵だが、クールに振舞いつつ、不意にそこにいるヤクザの大物の首をナイフでスラッシュして殺す場面に度肝を抜かれた。駐車場でバイクに乗り、刀を振り回して刑事に襲いかかる場面の凄みは、どうだ! 手のひらを合わせたポーズをとり、その手を拳銃の型に変えるジェスチャーのかっこよさ。久しぶりに、真似をしたい優作が戻ってきた! 大学4年のマナブは鏡に向かって真似してみたが、やはり似てなかった。


サントラも必聴! グレッグ・オールマン、イギー・ポップ、レ・リタ・ミツコ&スパークス、坂本龍一…


改めて『ブラック・レイン』を観直して、「巧いなぁ」と思うのは、スコット監督の優作の撮り方。ここぞという場面の前には、必ずと言っていいほど優作のアップの表情を瞬間的に入れてくる。バイク&刀の場面ではサングラス姿だが、勝ち誇ったように大きく口を開ける顔が。親分の手にナイフを突き立てた際には、ギラついた見下し目線が。後者は『野獣死すべし』のリップ・ヴァン・ウィンクル話のときのそれを彷彿させた。スコットも気づいていたのではないか。この映画を成功させるためには、ユウサクを際立たせないといけない、と。

話は逸れるが、この映画のサントラはロックファンとしては嬉しい逸品。冒頭に流れるグレッグ・オールマンの「アイル・ビー・ホールディン・オン」のドラマチックなサウンドに、まずシビれる。さらにイギー・ポップ、レ・リタ・ミツコ&スパークス、坂本龍一らの楽曲が連なる。いくつかは、この映画のために書き下ろされたナンバー。ハンス・ジマーのデジタルなスコアも刺激的だ。

優作が世を去ってから33年が経過したが、『ブラック・レイン』の中での優作は永遠だ。今観ても、あの凄みは古びない。佐藤がチャーリーに切りかかる場面の撮影時、ダグラスは「チャーリー、逃げろ!」というセリフを「アンディ、逃げろ!」と言い間違えてNGを出したという。アンディとは、チャーリーを演じたアンディ・ガルシアのこと。ダグラスは実際にガルシアが殺されるのではないかと錯覚したらしいが、それほどまでに優作は鬼気に迫っていた。気分が優作になりきっていても、この鬼気ばかりは誰にも真似できない。

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2022.05.16
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カタリベ
1966年生まれ
ソウママナブ
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