2月3日

新記録を樹立した松田聖子「秘密の花園」に隠された松本隆のムーンライトマジック

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70年代女性アイドルに存在し、松田聖子にも訪れた2つのカベ


「3年」と「20歳」。

1970年代の女性アイドルには2つの “カベ” が存在した。人気のピークはもって「3年」。「20歳」を超えたらアイドルは卒業し、路線変更せざるを得ない。それが常識だったのである。

以下、紅白歌合戦に複数回出場した人気アイドルの年齢(生年月)と、彼女たちがオリコンで連続ベストテン入りしていた期間を見てみよう(ベストテン入りが中断した後も複数曲が連続ベストテン入りした場合は人気が継続したと見做す。ちなみに桜田淳子とキャンディーズが該当)。

■ 南沙織(1954年7月)・・・「17才」(1971年6月)~「ひとかけらの純情」(1973年12月)
■ 天地真理(1951年11月)・・・「水色の恋」(1971年10月)~「想い出のセレナーデ」(1974年9月)
■ アグネス・チャン(1955年8月)・・・「ひなげしの花」(1972年11月)~「恋人たちの午後」(1975年3月)
■ 桜田淳子(1958年4月)・・・「花物語」(1973年12月)~「しあわせ芝居」(1977年11月)
■ 山口百恵(1959年1月)・・・「青い果実」(1973年9月)~「一恵」(1980年11月)
■ キャンディーズ(1955~56年)・・・「年下の男の子」(1975年2月)~「微笑がえし」(1978年2月)
■ 太田裕美(1955年1月)・・・「木綿のハンカチーフ」(1975年12月)~「しあわせ未満」(1977年1月)
■ 岩崎宏美(1958年11月)・・・「ロマンス」(1975年7月)~「二十才前」(1978年2月)
■ ピンク・レディー(1957~58年)・・・「ペッパー警部」(1976年8月)~「波乗りパイレーツ」(1979年7月)
■ 高田みづえ(1960年6月)・・・「硝子坂」(1977年3月)~「花しぐれ」(1978年3月)

両方を完璧にクリアしたのは山口百恵だが、彼女はデビュー3年後の1976年に「横須賀ストーリー」で路線と作家を大胆に変更。それが成功し、21歳での引退まで走り抜けたレアケースといえよう。

その百恵が引退した1980年にデビューした松田聖子は1962年3月生まれ。第2弾「青い珊瑚礁」(1980年7月)でベストテン入りを果たし、サードシングル「風は秋色」(1980年10月)以降は出す曲すべてがチャートの1位を獲得していた。

“ポスト百恵” の最右翼として注目された彼女は、1981年に松本隆というベストパートナーを得て、同性のファンも開拓。松本による女心の機微を捉えた詞世界と、はっぴいえんど人脈による洗練されたサウンドでトップアイドルの座を確立する。シングルのみならず、アルバムでも50万枚規模(LP+カセット)のヒットを連発していたのは、アイドルのメインターゲットである中高生だけでなく、経済力のある大学生や社会人のリスナーをも多数獲得していた証だろう。

だが、その松田聖子にも2つのカベは訪れる。18歳でデビューした彼女は1982年3月に「20歳」を迎えるが、こちらのカベは名曲「赤いスイートピー」(1982年1月)によってクリア。2つ目のカベはデビュー3周年となる1983年に迫っていた。

10作連続1位がかかった「秘密の花園」絶対に失敗できない大一番


ここで当時の彼女を取り巻く状況を確認しておこう。「風は秋色」から始まったシングル1位は「野ばらのエチュード」(1982年10月)で9作連続を達成。「もう破られないだろう」と言われていたピンク・レディーの記録と並んでいた。次はいよいよ新記録――。そのタイミングでリリースされたのが、12枚目のシングル「秘密の花園」であった。

前人未到の「10作連続1位」がかかった、絶対に失敗できない大一番。「白いパラソル」(1981年7月)以降、すべての楽曲の作詞を担当していた松本隆に相当のプレッシャーがかかったことは想像に難くない。ここで1位が途切れたら、「聖子もここまで」との烙印を押されかねない。実際、天地真理も、ピンク・レディーも、1位が獲れなくなった瞬間に “オワコン” 扱いされてきた。しかも背後には「セカンド・ラブ」が大ヒット中の中森明菜が迫っている。

そんな状況の中、松本は『小公子』や『小公女』で知られるバーネット夫人の小説と同名の「秘密の花園」を提供した。とはいえ、詞の内容は小説とは無関係。寧ろ、タイトルからも窺える通り、少女の初体験を匂わせるものであった。1番のAメロから歌詞を見てみよう。

松田聖子の年齢に応じて、歌の主人公を少しずつ成長させた松本隆


 月灯り青い岬に
 ママの眼をぬすんで来たわ
 真夜中に呼び出すなんて
 あなたってどういうつもり

最初の1行で、舞台が夜の海であることが分かる。聖子作品で、海はたびたび登場する場所だが、夜(しかも真夜中)は珍しかった。この時点の彼女のレパートリーで夜を描いたシングルは皆無。アルバムで数曲あるだけで、松本の詞でも「一千一秒物語」「星空のドライブ」など4曲しか見当たらない。そう、トータルで聴かせるアルバムならいざ知らず、ヒットが至上命令のシングルで、彼女のような明るさを持ったアイドルが夜を歌うのはリスクでもあった。

それでもあえて挑戦した。記録狙いで守りに入るのではなく、あえて攻めに転じたわけだ。しかし、それでファンに違和感を与えるようなことはしないのが松本流。1981年から1984年まで、ほぼ全作詞を手がけた聖子プロジェクトでは、歌い手の年齢に応じて、歌の主人公を少しずつ(この「少しずつ」というのが肝である)成長させていく戦略がとられたが、そのさじ加減が絶妙であった。

たとえば2行目に登場する「ママ」。聖子作品では「いちご畑でつかまえて」、「電話でデート」に続く3度目の登場で、リスナーにとってはお馴染みのキャラクターだが、娘との関係性は少しずつ変化していく。最初の「いちご畑~」では「好きな人できたら 最初は逃げるものよ そう教わった ママの恋の手ほどき」だったのが、2曲目の「電話でデート」では「近頃はママが 妙に気をまわして 心配してるの」となり、3曲目の「秘密の花園」ではついに「ママの眼をぬすんで」彼と会っていることが歌われる。そう、少女はもう、ママの手ほどきなどなくても自分の意思で恋愛をしているのだ。

「秘密の花園」で変わった彼女と彼の関係性


では次にBメロの歌詞を見てみよう。

 真面目にキスしていいの? なんて
 ムードを知らない人 ah… あせるわ

ここでは、彼が色事には不器用らしいことが示される。真夜中に彼女を呼び出したものの、それ以上はなかなか進めない。よく言えばジェントルマンなのだろうが、繊細で傷つきやすい少年は松本作品の必須キャラ。聖子プロジェクトでも “気弱で奥手な彼” が頻繁に登場し、ヒロインはその都度、そんな彼への想いを心の中で呟く。たとえば「Romance」では、明らかに自分に気がある彼に「私を見つめて」「先に打ち明けて」と歌い、「赤いスイートピー」では、知り合ってから半年過ぎても手さえ握らない彼を「ちょっぴり気が弱いけど素敵な人」と慕い、「あなたについていきたい」と歌う、といった具合だ。

ところが、この関係性も年を追うごとに変化していく。これまではそんな「あなた」をひたすら肯定し、秘めた恋心を綴っていただけだったのに、「秘密の花園」ではついに焦れ始め、さらには不満や反撃の意思さえ表明する。Bメロの「ムードを知らない人 ah… あせるわ」や、2番のAメロ「他の娘に気を許したら 思いきりつねってあげる」はその現れといえよう。

とはいえ、ここまではまだ心の内。だが、松田聖子が自分の意思で行動し始めるまでに、時間はそうかからなかった。本作の4ヶ月後に発表した「ハートをRock」では「あなたを変えたいの すこしずつ私の好みに」と歌い「ねえ 差し出した右手を重ねてね」と初めて自分からアクション。その半年後の「Private School」では好きな教師の頬にキスをし、「LET'S BOYHUNT」では恋の駆け引きを楽しむヒロインを実に楽しげに演じるようになっていく。

まさにマジック、聴き手をファンタジーの世界へといざなう松本隆“匠の技”


さて、最後にサビの歌詞である。

 Moonlight Magic
 私のことを口説きたいなら三日月の夜
 Hold Me Tight
 入江の奥は誰も誰も知らない秘密の花園

松本隆にしては珍しく性行為を連想させる隠喩。これも歌い手の成長を念頭に置いてのことだろう。その極めつけは半年後にリリースされた「ガラスの林檎」だが、どことなく宗教的でスピリチュアルな世界観は松本ならでは。決して生々しくならず、寧ろ聴き手をファンタジーの世界へといざなう匠の技はマジックと言っていい。

その「秘密の花園」はギリギリの段階で元のメロディをボツにし、ユーミンに作曲を依頼したという。絶対に失敗できない状況だっただけに難産だったわけだが、その甲斐あって10作連続1位の新記録を樹立。本作で「内気な少女」から「アグレッシブな女性」に変身するきっかけを掴んだ松田聖子は「3年」のカベを乗り越え、以後、天下無双のアイドルとして、道なき道を切り拓いていく。その成長を促したのが松本隆の詞であったことに異論は出るまい。

特集 松本隆 × 松田聖子



2021.07.27
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