1985年、エルヴィス・コステロが3度目の日本公演を行った日、私は渋谷にいた。高校3年当時、“受験は浪人一年目が勝負” ということで現役の夏は遊び回っていた。
友人と「オレの好きな店レオ」という洋服の安売り店に買い物に行こうということになり、ハチ公前で待ち合わせをしていると、ロックなお兄さんに声を掛けられた。「ねえ、君たち時間ある? よかったらアルバイトしない?」そのロックなお兄さんは “ホットスタッフ・プロモーション” という、大手音楽イベント運営会社の方々であった。
条件は午後5時~9時までの4時間、コンサート会場の警備(階段の要所要所で柵を持っているだけ)で7千円という、高校生の時給としては破格の待遇であった。当時ボブ・マーリーやポール・ヤングは知っていたが、エルヴィス・コステロなる南米麻薬組織のボスみたいな名前の人は知らなかった。がっ、である。
コンサートが始まって、フルアコ(※)から奏でられる圧倒的な音楽は「ギターが何かを訴えかけている」とも言うべき楽曲で、ロックあり、ポップあり、カントリーありの何でもありの音楽であった。日本ではあまり馴染みはないが「She」(1999年)という曲を聴いてくれれば「ああ、この曲の人」となるだろう。
コンサート終了後に「悪いけど君たち、ファンと言うことでこの花をコステロにあげてくれない?」とスタッフさん。何でも本当のファンを入れると何をするか判らないので、とのことだった。タダで最高の音楽を聴いて、楽屋で祝辞を述べて握手して、その上破格のアルバイト代をもらった記憶に残る一夜であった。
(※)エレキギターの一種・フルアコースティックギターの略
2016.03.18
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