この電話が最後かもしれない、 そう思いながら電話をかけることが人生に何度あるだろう。
別れた恋人の近況だってすぐに分かる時代に暮らす私たちは本当の「別れ」というものに鈍感になっている。電話回線一本で繋がる愛を22歳の私たちは知らない。
今年、神保町の映画館で『私をスキーに連れてって』のリバイバル上映を観に行ったけれど、そういえば、電話番号を間違えて教えてしまったら繋がれないし、大晦日の夜に志賀にいる彼女が恋しくなれば万座から車を走らせるしかなかったのである。
テクノロジーより、人の心が繋がりのライフラインだった時代。繋がりづらいからこそ生まれるロマンは今の時代にはなくなった。そんな時代の気持ちになってもう一度「SWEET DREAMS」を聴いてみよう。
1987年11月5日 にシングルとして発売された松任谷由実「SWEET DREAMS」。耳馴染みがあるのは、その一か月後12月5日に発売されたアルバム『ダイアモンドダストが消えぬまに』の中のバージョンのものだという人も多いかもしれない。
甘く切ない思い出と別れを描いているけれど、どこか自然で、あぁ、人と人が別れる時ってこんな感じだろうなという気持ちになる。
あなたの夢 叶うころ横には
どんなひとが微笑む 私ではないのね
明日が何も見えないと云うけど
思うより素敵よあなたは
そこには、「隣にいるのは 私ではない」という事実があるのみで、恨みや後悔の色は感じない。
ただ、お互いの未来を見つめた時に、それが重ならなかったというだけだ。恋愛にかかわらず、誰かとの縁が終わりになるときは、その人からの学びを終えて、次のステップに進むときなのだと思う。
だけど、それがわかったとき、どうしても埋められないひらいた距離に、私たちはただただ呆然と立ち尽くすことしかできない。
Sweet heart
写真立てにはおどける二人
今日を知らずにキスしてる
Sweet days
何に負けたの
わからないことがくやしいだけ
誰も、別れようと思って付き合うわけではない。離れるために出会うわけではない。だけど、どうしようもない大きな人生の流れに逆らえない瞬間がある。「何に負けたの わからないことがくやしいだけ」という歌詞からはそれが見事に伝わってくる。
電話一本切ってしまえば繋がりも途絶えてしまう時代に、別れを決断しようとしている2人。それを思うと、胸を襲うのは、甘く、せつなく、やるせない気持ちである。
結局のところ、約束された永遠なんてなくて、一緒にいる人との今の時間を大事にすることしかできないのだなと思う。その時間こそが「SWEET DREAMS」になるのかもしれない。松任谷由実が描いた世界が馴染むような大人に、はたして私はなれるだろうか。
2018.11.03
YouTube / 松任谷由実
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