9月21日

BOØWYの前にはアースシェイカーがいた!中高生にエレキギターを持たせた特別なマジック

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80年代に様変わりしたティーンエイジャーの意識


昨今、ギターケースを持ち歩く人を街中であまり見かけなくなった。いたとしても年齢層の高い大人が多く、“バンドやってます” 風情の若者はほとんどいない。今やティーンエイジャー(中高生)の音楽的嗜好は多様化し、80年代にその世代だった僕らがイメージするような “ロック” を愛聴する若者は、残念ながら減少傾向にあるようだ。

何年か前に、SEKAI NO OWARI のメンバーが「今どき、まだ “ギターロック” をやってるなんて」といった趣旨の発言で物議を醸し出したが、今の世代の嗜好を考えると、あながち極論とは言えないかもしれない。ほかにも、娯楽や趣味の多様化による音楽自体のプライオリティ低下や、少子化による若年層の減少など、変化の要因は単純ではないだろう。

少なくとも言えるのは、80年代当時とバンド活動やロックを取り巻く環境、そしてティーンエイジャーの意識が、すっかり様変わりしてしまった現実だ。

憧れはエレキギター!ギター誌がバンド活動を後押しした80年代


80年代当時、ロックを聴き始めた多くのティーンエイジャーが思い描く “エレキギターを弾いてみたい!” という欲求。ロックを象徴するエレキギターの音色は、演奏したい衝動に火をつけるのに十分なものだった。

実際に楽器を始める後押しとして、重要な役割を果たしたひとつがギター誌だ。インターネットのない時代、『YOUNG GUITAR』を始めとする音楽雑誌の影響力は、今と比較にならなかった。ギター誌を読んでギタリストに憧れ、さらにバンド結成を夢見るわけだが、いざバンドをやりたい仲間を集めパートを決めようとすると、当然その多くがギター志望だ。それじゃあバンドにならないので、結局、じゃんけんやクジ引き(笑)でパートを決める羽目になるのは “アマチュアバンドあるある" だろう。

ギター誌に多くフィーチャーされていたのが、マイケル・シェンカーやエディ・ヴァン・ヘイレン等をはじめとした洋楽のヘヴィメタル、ハードロック系の名ギタリスト達だった。これはHM/HRがリードギターを花形とするロックであり、誰もが憧れ真似してみたいと夢見がちなジャンルだからだろう。ギター雑誌が先導する形でティーンエイジャーの心を捉えたのは、洋楽のHM/HR系だったのは間違いない。

ⓒシンコーミュージック・エンタテイメント


洋楽メタルからジャパメタへ!バンド活動をより身近にした国内勢の隆盛


洋楽志向が顕著なHM/HRシーンに変化をもたらしたのが、80年代初期からのジャパニーズメタルムーブメントだ。ラウドネスの高崎晃、バウワウの山本恭司といった日本が誇るギタリストは海外勢より身近な存在として、アマチュアギタリスト憧れの的になり、とりわけジャパメタシーンを本格着火させた高崎とラウドネスは、ギターやバンドを始めるメタルキッズたちの新たな目標にもなった。

高崎の超絶テクニックに迫るべく、多くのアマチュアギタリストがコピーにチャレンジしたが、そのレベルの高さは異次元だった。さらには、他のパートの演奏もハイレベルなうえ、ボーカルのピッチがハイトーン過ぎて男性シンガーが歌うのは容易でなく、“完コピ” を挫折したバンドも多かっただろう。

そんな中、洋楽ライクでテクニック志向のラウドネスの方法論とは明らかに異なるジャパメタバンドとして颯爽と現れたのが、群雄割拠の関西メタルシーンを席巻したアースシェイカーだった。彼らはティーンエイジャーがバンドを志すきっかけとなる要素を幾つも兼ね備えていたのだ。

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他のジャパメタバンドの方法論とは一線を画すアースシェイカー


全国のHM/HRファンにその名を轟かせたメジャー・デビューアルバム『EARTHSHAKER』には、アイアン・メイデンのギタリスト、エイドリアン・スミスが提供した楽曲を収録するなど、洋楽メタル的な色合いもあった。それでも、洋楽志向にもテクニック志向にも寄らない、ボーカル・マーシーの圧倒的な歌唱力と明確な日本語詞を大胆にフィーチャーした音像は新鮮そのもので、他のジャパメタバンドの方法論とは一線を画すものだった。

以前寄稿したコラム草野マサムネも憧れたアースシェイカー、ギターを握りしめた18の日々でも触れた、アマチュアバンドにこぞってコピーされた名曲「モア」収録のセカンドアルバム『FUGITIVE』。アメリカ西海岸サンフランシスコでの海外録音を敢行しながらも、英語歌唱や洋楽志向にならなかった。むしろより歌謡曲にも通ずる哀感溢れる叙情的なメロディとポップでキャッチーな色合いを増して、マーシーの圧巻の歌唱がさらに躍動するハードロックを開花させた。

アースシェイカーは多くのメタルキッズから支持を集めるだけでなく、ティーンエイジャーのアマチュアバンドにコピーされる対象にもなっていった。日本人の琴線に触れるわかりやすい楽曲とメロディに加え、どういった点が心を捉えたのだろうか。



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マーシーのハイトーンに頼らないエモーショナルな歌い方


まずは、マーシーこと西田昌史の歌のチカラだ。どの楽器よりも大きなミックスで中心に据えられたボーカルは、比類なき存在感を放っていた。ハイトーンに頼らないエモーショナルな声で歌う、日本語中心にはっきり聴きとれる歌詞とゆったりした譜割りのメロディが、耳を捉えて離さない。それは他のジャパメタ系ボーカリストが成し得ないアプローチだった。

シャラこと石原愼一郎(G)、カイこと甲斐貴之(B)、クドーこと工藤義弘(Ds)の高いポテンシャルも見逃せない。それぞれ確たる技量を持つプレイヤーながらも、あくまでもマーシーの歌を引き立たせる最良な演奏を繰り広げた。それはアマチュアバンドの各パートのプレイヤーにとっても、思わずコピーしたくなるアンサンブルだったはずだ。

とりわけシャラの扇情度の高いギタープレイは歌心に満ち溢れていた。ギター歴が短くてもそれなりに弾ける素敵なフレーズがたくさん散りばめられており、コピー意欲を掻き立てられた。デビュー作のジャケットにアイキャッチとして登場したギターは国内メーカー、アリアプロⅡの比較的廉価なフライングV。実際ライブでもシャラが同社のギターを使ったことで彼らを身近に感じられ、真似できるかもと思ったものだ。

メジャーデビュー後には、国内バンドの利点を生かして、全国ライブツアーを積極的に敢行。生粋のライブバンドとして各地にファン層を獲得し続けた努力も大きい。僕も1983年に地元のバンドコンテストにゲスト出演したアースシェイカーを目撃した。凄まじい演奏とパフォーマンスに魅了され、会場でデビュー作を買い、一気に彼らにのめり込むきっかけとなった。

そして、それぞれのメンバーが愛称で呼ばれるように、全員のキャラが立っていた点も重要なポイントだろう。他のジャパメタバンドにありがちな強面ではなく、4人とも愛嬌があった。ステージでも笑顔で演奏することが多い彼らは親しみを覚えるのに十分だった。こうした様々な要素は、結果としてアースシェイカーを真似したい、コピーバンドをやりたいというティーンエイジャーを増殖させるのに繋がっていった。



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“SUS4” の使い方に妙味あり!ジャパメタの枠を超えた名曲「ラジオ・マジック


アースシェイカーの “名曲” を生み出す勢いは止まらなかった。彼らは再びサンフランシスコでの海外録音を敢行し、前作からわずか8カ月後という短いスパンでサードアルバム『MIDNIGHT FLIGHT』をリリース。そして、アルバムに先駆け先行シングルとして世に送り出されたのが、「ラジオ・マジック」だった。

シャラ作曲、マーシー作詞による「ラジオ・マジック」は、“SUS4” というコードを効果的に使ったキャッチーな響きの、メタルらしからぬ高音域のギターカッティングで始まる。デビューアルバムに収録されている「412」でもよく似たコードを用いていたが、深いディレイをかけた音色、シンコペーションを効かせたリズムなど、印象的なアレンジは段違いだ。勢いよく軽快に走り出した楽曲は、歌メロとともに落ち着きを見せる。マーシーが優しく歌う「♪何となく こんな夜は 君を引き止めた」から始まる歌詞のひとつひとつは、はっきりした言葉となって耳にすんなり入っていく。

ハードロックのダイナミズムを放散させるように弾ける、ポップかつキャッチーなサビパートはとりわけ俊逸だ。強いフックを放つ切なさを滲ませた歌謡曲ライクなメロディと、“ラジオ" というワードから感じ取れる、80年代を象徴するような歌詞のコンビネーション。40年経った今でも迷わず口ずさめるほどに、マーシーの紡いだラブソングが深く脳裏に刻み込まれていることに気づく。サビにおいても再び “SUS4” のコードが効果的に使われて、楽曲にカラフルな色合いを与えている点も大きい。

シャラの多彩なコードワークとコンパクトながらも情感豊かなソロ、カイの動きの大きい流れるようなベースライン、クドーの16ビートを刻む繊細さとパワフルさを兼ね備えたドラミングを繰り出す豊かな力量も見逃せない。4人が歌うように奏でる最良のパフォーマンスは、有機的に一体となり「ラジオ・マジック」というキセキを生み出した。



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アースシェイカーが持っていた特別な “マジック”


洋楽のヘヴィメタルブームが全盛期へと向かい、多くのジャパメタ勢が海外のバンド達の背中を追いかける一方で、アースシェイカーは類稀なるポップセンスと感性で、誰もが楽しめる聴きやすいハードロックを生み出すことに全力を注いだ。結果として、ジャパメタという狭いカテゴリーを果敢にブレイクスルーしたアースシェイカーは、「ラジオ・マジック」によってメタルやハードロックを普段聴かないティーンエイジャーにまで広く知られる存在となり、ひいてはメタルの枠やジャンルの嗜好を超えて、多くのアマチュアバンドにコピーされる対象のひとつとなった。

隆盛したジャパメタブームも、BOØWYの音楽シーンへの登場とともに変化が訪れ、ティーンエイジャーのロックファンが憧れる主役も取って変わっていった。けれどもBOØWYブレイクの前夜、「ラジオ・マジック」を生み出したあの頃のアースシェイカーは、ティーンエイジャーにバンドを始めさせるだけの特別な “マジック” を間違いなく持っていたのだ。

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2024.05.13
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カタリベ
1968年生まれ
中塚一晶
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