僕の世代は世間では「バブル世代」と言われるが、実は僕自身はバブルを味わったことがない。1980年代が終わりに近づき、バブルが絶頂に向かって突き進んでいた頃、僕は三重県四日市市に住んでいた。既にカタギのサラリーマンになっていた僕は、会社に言われて「都落ち」したのだ。これは東京育ちの僕にとって、只事ではなかった。 当時、僕は昭和30年代に建てられた独身寮に住んでいた。かろうじて部屋は個室だったが、電話はついていない。もちろんインターネットも携帯電話もない時代だから、東京との情報格差は埋めようがなかった。それに、生活環境の中にバブルを感じさせる要素は殆どなかったから、時々東京の友人たちから聞く世の中の様子が、まるで別世界の出来事のように感じられた。 自分が1人だけ取り残されたような気がしていた僕は、内心焦っていた。そこで、少しでも都会の感覚を失わないように、毎週末、約50km 離れた名古屋まで出掛けて行くことにした。その頃の名古屋はデザイン博の開催中でかなり盛り上がっていたから、僕にとって多少は気休めになった。そして、オープンしたばかりの名古屋 PARCO の中にできたタワーレコードに、東京での学生時代と同じように顔を出してみた。 ある時、店内のモニターに映し出されていたミュージックビデオに僕は釘付けになった。ティアーズ・フォー・フィアーズの新曲「シーズ・オブ・ラヴ(Sowing The Seeds Of Love)」だった。もちろん僕も彼らの存在は認識していたし、「ルール・ザ・ワールド(Everybody Wants To Rule The World)」と「シャウト」の2曲の全米No.1ヒットも知ってはいたが、正直なところ関心は持っていなかった。 しかし、この新曲は彼らのそれまでの作品とは全然違っていた。ビートルズの「アイ・アム・ザ・ウォルラス」を彷彿させたかと思えば、プログレッシブ・ロックのようにクラシックやジャズの要素も包含している。これまでの英国のロックの歴史に刻まれた、様々なエッセンスが散りばめられていた大作だった。実際、この曲が収録されているアルバム『シーズ・オブ・ラヴ』は、100万ポンド以上の経費がかかった難産アルバムとして知られている。Song Data ■ Sowing The Seeds Of Love / Tears For Fears ■ 作詞・作曲:Roland Orzabal, Curt Smith ■ プロデュース:Tears for Fears, Dave Bascombe ■ 発売:1989年8月21日Billboard Chart ■ Sowing The Seeds Of Love / Tears For Fears(89年10月28日2位)Billboard Chart(Album) ■ The Seeds Of Love / Tears For Fears(89年10月28日8位)※2016年7月6日に掲載された記事をアップデート
2019.09.25
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YouTube / TearsForFearsVEVO
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