2月25日

ドゥーワップを手にしたネズミたち、シャネルズからのラッツ&スター

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photo:Discogs  

「RATSとはネズミのことである。ネズミたちがドゥーワップをうたったときRATSのつづりはひっくり返りSTARとなった」

この文章は81年5月10日シャネルズ名義で八曜社から出版された、『ラッツ&スター』というタイトルの単行本の帯に記されたものである。

80年2月25日「ランナウェイ」でデビューし瞬く間にスター街道を駆け上ったシャネルズがラッツ&スターと改名したのは83年。その2年前にこの単行本が出版されていることが興味深い。ちなみにこの本は、NHK FM『サウンドストリート』の初代DJで火曜日担当だった、作家で編集者の森永博志さんが編集に携わっている。

ラッツ&スターの前身であるシャネルズは、リーダー鈴木雅之を中心に地元東京、大森の同級生を中心に結成。ヴォーカル4人を含む10人という大所帯でデビューしている。特筆すべきは、音楽ありきでメンバーを募ったわけではなく、地元の仲間の結束で何かできないか? 考えていた挙句、当時夢中になっていたロックンロールを掘り下げ、ドゥーワップにたどり着いたということだ。

時は75年。週末ともなれば、バイクや車で街を流していた不良少年たちが音楽に目覚めるとなれば、それは、矢沢永吉率いるキャロル、そして彼らの親衛隊だったクールスの影響がないはずがない。

シャネルズも結成当初は、クールスがリスペクトしていたアメリカのグループ「シャ・ナ・ナ」をイメージしたバンドづくりから始まった。ちなみにシャネルズというバンド名も「シャ・ナ・ナ」からインスピレーションを得ている。

そんな彼らはバンド結成当時から、常々、人と違ったものをやりたいという意識が高かったという。76年のテレビ初登場時には、キャロルが革ジャンなら俺たちのスタイルはスカジャンということで、『ぎんざNOW』に出演している。このような意識から、彼らが黒塗りの顔で衝撃的なデビューを果たすのもなるほど納得できるものがある。

「ランナウェイ」でデビュー後も次々にヒットを連発し、80年、81年にはロサンゼルスの名門ライブハウス『WHISKY A GO GO』に出演。大森の不良少年たちは黒人音楽という原石を磨き、山下達郎にも認められるようなグループとしてキャリアを重ねていく。

そして83年11月1日、ラッツ&スター名義で『SOUL VACATION』を発売。大瀧詠一プロデュース、アンディー・ウォーホルがアートワークを手掛けた彼らの最高傑作だ。

彼らの出身である大森という街はキャロルが結成された川崎から駅でふたつ。まさにダウンタウンの名が相応しい、ちいさな工場がひしめき合う海沿いの工業地帯だ。この街で生まれ育った不良少年たちは、デビュー後もしばらくの間、トラック運転手、旋盤工などの仕事に従事しながら活動を続けていた。

仲間との結束の先に見えた音楽。つまり、彼らにとって音楽とは、成功の手段ではなく、生き様として選んだものだった。彼らが生まれ育った大森。この工業地帯の夕日には、甘く切なく、そしてメロウなドゥーワップがよく似合う。

音楽という、たった一つの宝物を知り、楽器を手に、4本のマイクスタンドの前に立った瞬間から10匹のネズミたちは輝きはじめたのではないだろうか。シャネルズ『ラッツ&スター』の巻末には、こう記されている。

「黒いネズミたちは、いつもダウンタウンの路地裏から夜空を見上げては、星を見つめていました。10匹のネズミたちは、星の奏でる甘くて美しいメロディや歌声を聞いていたのです。そのメロディや歌声は10匹のネズミたちにしか聞くことができませんでした。というのも街の騒がしい音にかき消されてしまうからです。10匹のネズミたちは不思議なことによく聞くことができました。何年かたつと10匹のネズミたちは星になっていました。」

RATS&STAR。まさに言い得て妙である。



引用文:
ラッツ&スター / シャネルズ
(八曜社刊)

2017.11.13
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カタリベ
1968年生まれ
本田隆
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