1月18日

すべての人に訪れるクリスマスの夜 ー ポーグスが奏でるニューヨークの夢

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photo:FANART.TV  

クリスマスソングをどう捉えるかが、オトナと子どもの分岐点のような気がする。

若い頃のクリスマスはマウント意識が先行して、浮足立って街に出かけることが何よりと考えていたが、年を重ねるにつれ、何事もなかったように淡々と仕事をしていることが多くなった。それでもクリスマスは特別な日。そう思わせてくれるのは、ジョン・レノンの「ハッピー・クリスマス - 戦争は終わった(Happy Xmas - War Is Over)」であったり、この曲にインスパイアされたと思われる佐野元春の「CHRISTMAS TIME IN BLUE - 聖なる夜に口笛吹いて」だった。

このふたつのクリスマスソングには、世界中すべての人に訪れるクリスマスの夜、あなたは何を思いますか? というメッセージが隠されている。自身が主役のクリスマスから客観的な視点で人生を知り、自らを顧みるクリスマスへ。こんな風に特別な日を思うことがオトナへの扉のような気がする。

そして、もう一曲。僕にとって、極上のクリスマスソングがある。それはポーグスの「ニューヨークの夢(Fairytale Of New York)」だ。

ケルテックパンクと称される彼らのサウンドは、メンバーの生まれ故郷であるアイルランドのトラッドミュージックであるケルト音楽をパンクロックのグルーヴに持ち込んだもの。この「ニューヨークの夢」は、彼らのそんなスピリットが集大成され、音楽的深化を遂げた傑作サードアルバム『堕ちた天使(If I Should Fall From Grace With God)』に収録され、多くのイギリス人に愛されている。

ボーカルのシェイン・マガウアンと、このアルバムのプロデューサーであるスティーヴ・リリーホワイト(※注)の当時の奥さん、カースティ・マッコールとのデュエットで織りなすこの曲のタイトルは、ニューヨークのおとぎ話という意味。さしずめ一本の短編映画のようだ。

「ニューヨークの夢」は新天地を夢見て、アイルランドから移民してきた男が、こんなはずじゃなかったと泥酔し、クリスマスの夜にぶち込まれた留置所から出てくるところから始まる。そしてこの男と長年連れ添った妻との罵り合いの場面へと移る。

「ハッピー・クリスマスなんてくそくらえだ!」

「神に祈ってアンタとはこれっきりにしてもらうわ!」

それでも街にはクリスマスを祝ってニューヨーク市警の青年聖歌隊は歌を歌い。教会の鐘は鳴り響いていた。すべての人に平等にクリスマスの夜は訪れるのだ。そして、曲のラスト近くで男はこんな風に独白する。

「俺はひとりじゃなにもできないんだ。だからお前のそばで俺の夢を作り上げていたいんだ。」

人生は年を重ねるごとに曇り空の日が多くなってくる。それでも、あなたがいたからと思える夜があればまんざらでもないような気がする。まんざらでない人生を思い、未だ見ぬ明日への希望を見出すクリスマスの夜。

十代の頃、ジョンや元春の歌った、クリスマスソングから生きる意味を知り、僕は自分の人生を歩み始めた。そして、ポーグスの奏でるニューヨークのクリスマスの夜は、より鮮明に人生の悲哀を浮き彫りにし、人生は一本の映画のようなものだということを教えてくれた。そして、この人生という映画はハッピーエンドに向かっていることも。だから、明日があることに感謝をし、僕らは生き続けるのだろう。


※注:スティーヴ・リリーホワイト
イギリスの音楽プロデューサー。これまで5度のグラミー賞を受賞(2017年現在)。手掛けたアーティストは、モリッシー、U2、ザ・ローリング・ストーンズなど。

2017.12.15
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  YouTube / The19eighties
 

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カタリベ
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本田隆
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