西城秀樹未発表曲「終わらない夜」は“追憶” より “リアル” 成分多め
「私、ヒデキから特別にコンサートに招待された。行ってくる」
「なんで!? お姉ちゃんだけズルいわ! ひどいわ!! キェェッ!!」
嘘をついて自慢してくる小学校高学年の姉と、それを真に受けギャン泣きするチビの私。45年ほど前の田中家の修羅場である。年の離れた姉が西城秀樹の大ファンで、姉っ子だった私も自然と好きになる過程は “ちびまるこちゃん” とほぼ同じ。当時はきっと、日本中の姉妹が同じように、茶の間でヒデキの取り合いをしていたのではなかろうか。お子ちゃま勢までここまで本気にさせたヒデキの色気と魅力、つくづく恐るべし、である。
そんな私ももう50半ばだが、今でも西城秀樹を聴くと、すごい勢いで青春気分に引き戻される。姉とブラウン管の前で叫んだ「ヒデキ―ッ!」の黄色い声が、空耳で聞こえてくるほどだ。そして改めて、溢れ出るエネルギーが見えるようなパフォーマンスに見とれる。「古さを感じない!」彼のリアルタイムを知らない世代のファンが急増しているというのも、ものすごく分かるのである。
そもそもサブスク時代の今、年代別にプレイリスト化してあるものの、初めて聴く世代にとっては、新曲と同じ感覚なのだとか。ヒデキもきっと、過去の人ではなく、今のヒーローなのだ。
ちょっと羨ましい。私も “ノスタルジィ” の成分を取り払ってヒデキを聴いてみたい。どんな感動を覚えるのだろう……。
それが体験できる1枚が来た! 10月5日に発売された「終わらない夜」だ。
「もしかして、ヒデキのリアルタイムを知らない人が受けた感動とはこういう感じなのかも」
―― そう思えるほど、こちらは “追憶” より “リアル” 成分多めのサウンドだった!!
西城秀樹の甥・宅見将典と世界の最高峰ミュージシャンが結集
「終わらない夜」は、2006年のコンサートのオープニング曲として、本人監修のもと、書き下ろされた曲だ。
歌われたのはなんと1度きり。時期的に辿れば、2003年に2度目の脳梗塞で倒れてから、3年ぶりのシングル「めぐり逢い」を発売し、本格復帰ぶりを見せつけていた頃の声である。いやもう、グルーヴとパッションでビシビシハートを蹴ってくる、“ヒデキック・ボイス”(すいません勝手に命名しました)は、のたうち回るほどセクシーだ!
はじまりはミステリアス。そこからジリジリと「さあ、この夜思いきりワクワクさせてやるぜ……!」と駆け引きを仕掛けてくる感じ。だんだんと高まり、真骨頂のシャウト「終わらない!」でトドメを刺される。
カーッ! 勝てん!
恐ろしいほどにファンを殺しにかかる流れである。
今回のプロジェクトは、その2006年のヒデキのボーカル音源を、NYの最高峰ミュージシャンが、最高にスタイリッシュかつエネルギッシュに音を絡めたものだ。
国と時間を超え、クールに仕上げた司令塔(プロデュース)は宅見将典。ギタリストとして参加したスライ&ロビーのアルバム『One Pop Reggae』で第53回グラミー賞候補となった、世界的に活躍する音楽家だ。
さらに私が大好きなモーニング娘。の「まじですかスカ!」や、DA PUMPの「P.A.R.T.Y.~ユニバース・フェスティバル~」の編曲を手掛けた方だった。もっと驚くべきことに西城秀樹の甥御さんであった。炸裂する音楽のDNA!
リスペクトとパッションは世界に通じるリズム!
宅見氏にとって、西城秀樹はやさしい叔父であると同時に、幼い頃から大好きで大好きでたまらない音楽そのものだったことが、彼のブログを読むとよく分かる。特に、2018年5月27日の「ありがとう」と題した日記。
「幼少の頃、熱がでて寝ていた僕はあなたのビデオを何度も何度も見返していて」
―― という、物心ついて初めて会った時の回想から始まる思い出。漢字で書かれているけれど、ひらがなで読みたくなるような素直さで、その交流が訥々と記されている。
小さな頃からヒデキのファン。高校生で初めて作曲した曲を褒められ、バンドを組んでヒデキの曲を必死で練習し、ギタリストとして一緒にツアーを回り、時には真剣にケンカをし――。
ヒデキの音楽に憧れ、心に沁みこませてきた彼が、「ショーの始まりにふさわしいカッコいい曲が欲しいんだ」とヒデキから依頼され作ったのがこの曲だった。まさに「貴方(西城秀樹)の歌で育ち、貴方の音楽に魅了され」育った宅見氏の真剣勝負。それを15年経った今、リリースするーー。思いもプレッシャーもすごかったはずだ。
ドラムのジェリー・ブラウンは、
「この曲を演奏していると、強烈な情熱を感じるよ。この曲にも、彼の声自身にも。情熱や愛や一途さが溢れている」
―― と語っている。リスペクトとパッションは世界に通じるリズムだ!
西城秀樹には、この曲の他には、もう未発表曲はない。つまり新曲リリースという意味では、これが最後。けれど、聴けば寂しさより興奮が勝る。西城秀樹の沼はまだまだ底は見えない… さらに深いと思い知らされる。
「終わらない」の言葉の喜びは “永遠” よりもリアル。秋の夜長、彼の声に誘われ飛ぶぞ、摩天楼。ヒリヒリと鳴るギターの音とともに、ヒデキのショーが始まる!
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2022.10.05